昨日、埼玉県坂戸市にある城西大学水田美術館で開催中の特別展示「高麗川物語(こまかわものがたり)」を観に行ってきました。

高麗川は荒川の支流である入間川の、そのまた支流である越辺川の、そのまた支流の川です。秋には曼珠沙華が咲き盛る巾着田(きんちゃくだ)で有名な蛇行の多い清流です。

一本の川を、「環境」「食」「健康」という3つの切り口で紹介する試みにより、川と人とのつながりを立体的に感じることのできる、とても楽しく有意義な展示となっていました。

自然環境のパートでは、高麗川に深い関わりのある二人の写真家の作品を通して、川の自然や生き物たちが紹介されていました。上の写真は、NHK「ダーウィンが来た!」の多摩川シリーズなどでおなじみの、平野伸明さんによる高麗川の生き物の写真です。

平野さんが鳥などを撮影する際に使用するカモフラージュテントも展示されていました。中に入ることもでき、小さな小窓からは高麗川の自然を紹介するムービーを見ることができる仕組みとなっています。

そしてもう一人の写真家とは、生物写真の大御所である嶋田忠さん。ベストセラーとなった『カワセミ 青い鳥見つけた』の多くは高麗川で撮影されたそうです。

実は嶋田さんの生まれ故郷は、埼玉県ふじみ野市(旧大井村)で、私の事務所のすぐ近く。カワセミを高麗川で撮影されていたのは今から50年以上前となりますが、その頃は高度経済成長期のピークでもあり、多摩川も荒川も、私が普段歩いている新河岸川や柳瀬川、黒目川も汚染がひどく、「死の川」などと呼ばれた時代です。

私はその時代生まれなので、かつて近所の川がそんなに汚れていた実感は持てておらず、今川を歩いていても、何気なく「昔はもっと良かったんだろうなー」なんて思いがちなのですが、川で少し年配の方に話を聞くと、皆こぞって「だいぶきれいになったんだよ」と話されます。そう、都市の川は、この50年でだいぶきれいになったのです。

嶋田さんが高麗川に通うようになったのは、近所の新河岸川や柳瀬川にカワセミがいなかったからだそう。私は幼少時に遠足で高麗川に行きましたが、その頃から近くのきれいな川といえば、高麗川だったのです。今では新河岸川にも柳瀬川にも黒目川にもたくさんのカワセミがいます。展示を見て、改めてその感覚を確かめることができました。

また、高麗川は昔から、独特なアユの投網漁が行われてきた川でもあります。そんな「高麗川伝統鮎投網漁」の展示もとても充実していました。

漁で用いる投網。

ウッドクラフトの川魚と高麗川の代表的な石で川底を表現。

大きな特徴は、投網を打ちながら、ヤスでアユを仕留めるという漁法です。

投網漁をするには規模が小さく、岩がゴロゴロと点在する高麗川では、打った投網の隙間からアユが逃げてしまうのだそう。そこで投網を打ったらすぐにザブンと水中に潜り、水中眼鏡で川底のアユを探して手づかみしたり、ヤスで仕留めるという漁法が編み出されたのです。

面白いのは「捨て綱」という、アユをおどかすためだけの網打ちです。投網に驚いて岩の裏などに隠れたアユを潜ってヤスで突くのだそうです。

川の自然環境に根付いた漁法を知ることで、逆に川を深く知ることができる。そんな相互な関係を目の当たりにすることができました。

アユは岩についた藻類をブラシのような歯で擦りとって食べる魚です。その痕のついた石も展示されていました(一般的には「ハミアト(食み痕」と呼ばれますが当地では「ナメアト」と呼ぶそうです)。

食の展示では、かつて江戸前鮨にあった「アユの姿鮨」や

当地でのかつてのアユの保存法である「焼き干し」などが紹介されていました。

ちなみに先日、公開されたウェブコラム「川と釣りとカジカ突きと」でご協力をいただいた入間市の郷土料理「ともん」さんも、高麗川をアユの漁場の一つとしていて、戸門秀雄さんは今回の展示の特別アドバイザーとして協力されています。

さらには、当展示の企画・監修者である真野博教授と松本明世名誉教授が顧問を務める城西大学の地域活動サークル「高麗川かわガール」の活動報告や、食品学や化学をご専門とするお二方ならではの、「健康」に関する展示もありました。

獲った魚を食べられる健康的な川があり、魚を食べることで人も健康にもなれる。

そんな川と人との理想的なつながりを、高麗川を通して学ぶことができました。

「自然を大切にしよう」は今の時代、社会常識になった感がありますが、そこになくてはならない思うのは「切実なる必要性」です。必要だからこそ、失ってしまっては本当に困るからこそ、自然は大切にされるのではないでしょうか。すべての自然や、すべての生き物にその気持ちを抱くことは難しいと思いますが、何か一つでも「切実なる必要性」があれば、その「結果として」守られる、大事にされる自然や生き物もあると思います。今回の展示を見て、改めてそんな気持ちを抱きました。

展示は2025年11月9日(日)まで。(詳細はこちらです)。展示を見て、城西大学のすぐ横を流れる高麗川を少し歩いてみる、なんてコースもおすすめです。お昼時には安くて美味しい学食も食べることもできます。

高麗川のあり方を通して川と人とのつながりを改めて考える。自分の好きな川、近所の川に目を向ける。そんな機会となる素晴らしい展示を、ぜひご覧になってください。

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