フライフィッシング専門誌『FlyFisher(フライフィッシャー)』(つり人社)の最新号、2026年早春号より、連載「マスの記憶を訪ねて。」が始まりました。

ここで言う「マス」とは、かつて日本(の主に本州)の山間・中山間でそう呼ばれていたサクラマス類(サクラマス、サツキマス)のこと。山岳渓流や里川でフライフィッシングの相手をしてくれるヤマメやアマゴの降海型です。

川を降り、海で育ち、また生まれ故郷の川に溯上するマスは、その昔、山間・中山間地域に暮らす人たちにとっての大きな恵みでした。サケ以上に山の奥深くまで上るマスは、夏場に突如現れる大きな魚として、ヤスや手鉤、網などで獲られ、海魚の少ない山あいの人々にとっての重要なタンパク源として、またお祝いの魚として、重宝されてきました。

古い漁の記録や聞き取りから、かつて日本には今では想像もつかないほどのマスが上っていたことがわかります。ところがその多くは、高度経済成長期のダム建設や河川の汚染により姿を消し、人々との繋がりも薄れていきました。

今でもマスは各地に残っていますが、かつての姿や人との関わりは、なかなか想像することができません。

シフティング・ベースライン・シンドロームという言葉があります。異常だった状態も、慣れてしまえば日常になる、という感覚です。

多くの人が、かつてのマスの記憶を失ってしまった…というよりも、そもそも今の私たちは、かつてのマスの記憶を持ち得ません。でもそこに、不完全ながらもかつての恵みとしてのマスの記憶を呼び戻したい。現地に足を運び、話を聞いて、書物を読んで、少しでもイメージの輪郭を取り戻したい。そんな気持ちになりました。

フライフィッシングを楽しむ人たちにとって、大型の溯河性魚類であるサクラマスやサツキマスは、少し遠い存在かもしれません。そこをあえてフライフィッシング専門誌『FlyFisher』で書かせていただく理由もあると思っています。同じ号の巻頭コラムで滝大輔編集長にも少し触れていただいていますが、私の中では「素晴らしい渓流釣りをこれからも楽しみ続けたい」という思いにつながっています。

かつて山あいに暮らす人たちにとっての恵みであったマスへの思いを復元することで、今これからの時代に多くの人が川を必要とする意味を考えられたらと思います。釣り人が川を必要とする意味は言わずもがなでしょう。ただ、川は釣り人のものだけではありません。より多くの人にとって必要とされる川を考えることに、これからも楽しい釣りを続けていける道筋があるように思うのです。

今号は序章の第0回となっています。ぜひ読んでいただけるとうれしいです。〈若林〉□

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