この秋、ヤマケイ文庫となった桂歌丸さんの名著『岩魚の休日』。

ご縁をいただき、文庫のあとがきを執筆しました。

『岩魚の休日』は今から37年前に当時49歳だった桂歌丸師匠が世に放った釣りエッセイ。まだまだ大イワナを狙って奥利根の渓に通い詰めていた頃の作品です。

内容は楽しんで読んでいただくとして、一冊を通して強く感じたのは、歌丸師匠の釣りへの一途な気持ちです。

なんのために釣りをしているのかといえば、それは自分の楽しみのためなんですよね。

自分が楽しく、好きだからこそ、思うことがある。

そんなシンプルな思いを、噺家ならではのエンタメに昇華しつつ、語るように綴った一冊です。

あとがきでは、僭越ながら、ある程度釣りを知る者として、釣りをしたことのない人、釣りのことをよく知らない人に向けて、歌丸師匠の釣りの腕前や釣りへの思い、釣りキチ度合い、釣り哲学などを、できるだけわかりやすく伝えようと努めました。

これまで歌丸師匠は「笑点」で馴染みあるぐらいで、歌丸師匠の落語を聞いたことは一度もありませんでしたが、今はYouTubeという便利なサービスがありますので、いくつかの落語を試聴しました。話の巧さはもちろんのこと、茶をすする所作から声色、表情に至るまで、演じ手としての品格と耳心地よい発声に、すっかり惹き込まれてしまいました。

なにげなく母に伝えると、亡き父と一緒に歌丸師匠の落語を聴きにいったことがあるとのことで、そのチケットの写真がLINEで送られてきました。

YouTubeで落語を聞いて、ファンの一人である母から魅力を聞いて、改めて本作を読んでみると、活字に歌丸師匠の声が乗り、また違う雰囲気を帯びるという発見もしました。

歌丸師匠の落語ファンの方は、師匠自ら「人生の半分」とも語る釣りへの思いを、目で文章を追いながら、きっと耳心地よく、懐かしく聴くのでしょう。

挿絵は『RIVER -WALK』誌で大変お世話になった本山賢司さん。

私は元の本を古本で購入したのですが、初めて本を開いたのは、ちょうど『RIVER -WALK』Vol.3で連作のイラストレーションストーリーをご寄稿いただいていた頃だったこともあり、そんなちょっとした縁も感じていました。

 

素敵なイラストとともに装丁も新たになった釣りエッセイの名作を、秋の夜長にお楽しみください。