3月に入り、春めいた日も多くなってきました。川っぷち観察愛好者の私としましては、一年のうちで今の季節こそが最も川っぷち観察を始めるのにうってつけだと思っておりまして、今回は観察をより楽しくするための本を3冊紹介したいと思います。

まずは身近な鳥を知るのにうってつけなこちら。

『あした出会える野鳥100』(柴田佳秀 著・菅原貴徳 写真・piro piro piccolo 絵/山と溪谷社)

帯に「市街地や公園、河原、湖で出会える、身近な野鳥を選抜」とありますが、身近な町中の川で出会える鳥がたくさん紹介されています。イラストでわかりやすく見分けの特徴を紹介しながら、とても楽しくエスプリの効いた文章により、鳥たちのキャラクターを覚えることのできるつくり。そして写真は鳥そのものだけでなく、その鳥が「居がち」な場所にいるシーンが選りすぐられています。例えばドバト(カワラバト)ならば瓦の上に留まっている姿とか。自然観察には「サーチングイメージ」というコツのようなものがありまして、一度観察して自分の中にイメージができると途端に見つけられるようになるものですが、この本の写真は鳥を見ずしてもある程度のサーチングイメージを得ることができるものなのではないかと思うほど。それぞれの鳥につけられた2行キャッチも秀逸で、鳥を覚えるための豆単でもあるのです。今ならば川っぷちでツグミやカワラヒワ、ハクセキレイにセグロセキレイ、動き出したザリガニやヌマチチブなどをついばむサギ類、北へ飛び去る前のオオバンやカモの仲間、南からやってくるイワツバメやツバメ、営巣を始めるハシボソガラスやムクドリたち、まだまだたくさんの野鳥観察が楽しめますよ。

続いてこちら。川っぷちは水が流れているところだけではありません。町中を流れる川の河道(河川敷)は野生動物たちの残された回廊なのです。

『哺乳類のフィールドサイン観察ガイド』(熊谷さとし 著・安田守 写真/文一総合出版)

春に限らず一年中役に立つこちらは、なんといっても生きものの姿を見ずして生きものの気配を楽しむことのできるフィールドサイン探索のためのガイド本です。埼玉南部の私のよく見る川っぷちに暮らす野生動物(哺乳類)といえば、タヌキ、イタチ、アライグマ、キツネ、アカネズミ、ハタネズミ、カヤネズミ、ドブネズミ、アブラコウモリあたりでしょうか。これらを日中に観察するのは結構大変なことです。なぜなら彼らの多くは夜や朝夕の薄暗い時間に活動することが多いためです。ですが足跡やフン、食痕、けもの道などのフィールドサインを探すことで、彼らがここにいることがわかります。見ずして存在を知る。これはとても贅沢で豊かな体験です。この本にはそれらフィールドサインの数々が、動物ごとにとてもわかりやすい写真と解説でまとめられています。代表的なサインである足跡については足裏の写真がセットになっていますので、ふむふむここがこのように跡になって残るのか……と、とても興味深いです。河道を囲む土手に柵がなければ、川向いをチェックしてください。町中の川では河道そのものの他に「河道と連結している自然環境」が彼らの暮らしにとってとても大切になってきます。田畑や藪地、雑木林など。河道から土手を乗り越えて向かいの畑まで続く足跡を見ながら、動物たちの夜の営みを想像する楽しさをぜひ味わってみてください。

そして最後に手前味噌ながら自著のご紹介も少し。

ヤマケイ新書『武蔵野発川っぷち生きもの観察記』(若林輝 著/山と溪谷社)

当ブログでもたびたび紹介してきましたので、詳しくは省きますが、3月の今こそが、この本とともに川っぷち生きもの観察を始める絶好機であることをお伝えさせてください。本の舞台は埼玉南部の武蔵野平野を流れる新河岸川と、その支流である柳瀬川、黒目川、そして弊社事務所の脇を流れる三面護岸水路の通称「ガタ」です。ちょうど今、川では鳥たちがさまざまな動きを見せていることは先にも書きましたが、川の中もぜひ覗いてみてください。両手に抱えるほどの大きな魚たちが普段見ることのできない産卵行動を見せてくれるシーズンなのです。マルタウグイの真っ黒な大群や(残念ながら近所では昨年からあまり見られなくなってしまいました)、でっぷりと太ったコイの迫力あるハタキ(水面をはたくような産卵行動)、そして情緒たっぷりのニゴイのペアリングや激しいオス同士の闘争は、身近な川にこんなドラマが!と驚かれることと思います。魚を知ると、カワウやサギ類などが何を食べているかがわかります。彼らがなぜそこで狩りをしているのか。なぜそんな狩りのスタイルなのか。魚を知ることでこれらが腑に落ち、うんうんさすがやな……と野生を生きる彼らの逞しさ、賢さに心動かされることしばしばです。まずはこの本を手に、車の通りに注意して橋の上から川を覗いてみましょう。この時期は遠くの川面にまで目を凝らすのがコツです。彼らの産卵行動はいずれも水面に激しく飛沫を上げますので、その水飛沫を探すのです。

以上、春の川っぷち生きもの観察がもっと楽しくなる3冊でした。〈若林〉□

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