少し暖かくなったと思ったら、また寒くなりましたね。 釣り人はとても気が早いもので、小さな春を探してはワクワク・ムズムズ(鼻が)しているこの頃です。 私がとても大切にしている宮城県の北上川でもサクラマスが釣れた、との一報が入りました。 やっぱり春なんです。
「桜前線」という言葉がありますが、これからの季節、釣り人にとっては、桜前線の一歩先を行く前線があるんです。
こちらです。 これ、イシモチという魚です。 イシモチ前線です。
2013年3月~2014年2月にわたる一年間、雑誌『ソルトウォーター』で「サカナサク、海の旅。」という連載がありました。 東日本大震災で被災をした宮城県・石巻市在住の釣り人、佐藤文紀さんと一緒に、震災から2年を経た東日本太平洋沿岸を、千葉県の九十九里浜から青森の六ヶ所村まで毎月、北に歩を進めながらレポートするという連載です。 震災当時の様子、そして2年を経た段階における沿岸の状況を取材し、「被災者」と「釣り人」という視点を持つ佐藤さんに執筆していただいた、とても意義深い連載です。 決して軽いテーマではなく、ときに重苦しい雰囲気に包まれながらの取材となりましたが、そんななか、その季節にその地でなしえる魚との出会いが、私たちの気持ちを和やかなものにしてくれました。
東日本の太平洋沿岸をざっくりと区切ると、九十九里浜から茨城、福島を通り宮城県は仙台・松島あたりまではおおむね砂の海、そして佐藤さんの住まう石巻の牡鹿半島あたりから三陸のリアス式海岸を経て八戸あたりまでが岩の海、そしてまた砂と・・。 そんな感じだと思うのですが、上のイシモチは砂の魚、なんですね。 春になると沿岸部に接岸する砂の魚なんです。
私たちが九十九里浜をスタートしたのは3月下旬の頃でした。 堤防ではオジサンたちが「釣れ始めたよ~」とイシモチ釣りを楽しんでました。 翌月、茨城の鹿島灘で、またしても「釣れ始めたよ~」というイシモチに遭遇。 その翌月は日立のあたりで、またしてもイシモチに出会うという・・。 取材は1カ月に一度。少しずつ北へロケ地を移していたことで、完全にイシモチ前線とともに旅をしていた感覚を味わえた、というわけです。
このイシモチ、よくよく見ると、なんかトラウト(鱒)っぽくありません? 釣られるとすぐに口を開けてグーグー鳴く魚なのですが、口を閉じた瞬間を見計らって撮影すると、なかなか精悍な面構えに。鹿の子模様もきれいで好きですね~。
旅をともにしたイシモチ前線は、夏に訪れた福島の南相馬あたりで見失ってしまいました。 なぜならば、このあたりは原発事故の影響により、まだ多くの釣り人が竿をだせる状況ではなかったことから、港でのアジぐらいしかお目にかかることができなかったためです。
そして夏を越し、我々はさらに北上。 すると今度は北方から逆に降りてくる「サケの遡上前線」を感じることができました。 サケの遡上時期はイシモチの接岸とは逆に、より寒い北方から始まって少しずつおりてきますから。
交差するのは、ほんの一瞬。
季節を飛ぶような体感を得た我々がその前線をまたぐと、 一気に白銀の世界へといざなわれたのでした。□ |