先週、鳥に詳しい人と一緒に晩秋の川を歩いた。 鳥に詳しい人は、鳥の食べ物でもあり生活の場でもある木にも詳しい。木はダイレクトに標高を表しているが、なかなか意識しないとその変化に気づくこともない。木に詳しい人と一緒に歩くことで、水の中ばかり見ていると気付けない風景を見ることができる。 今回歩いたのは標高800m~1000mぐらいのあたり。 日頃の運動不足がたたって、歩きはじめて10分もしないうちから息が切れている。平地を歩くのと山を歩くのとでは、まるで心肺への負担が違ってくるようだ。 歩きはじめてすぐにクリの木にクマ棚らしき跡を見つけた。そのあたりがガサガサと動いている。一瞬、身構えたが並んで立っている柿の実を食べていた猿だった。 サルは煩わしそうにこちらをにらむと、食べかけの柿を岩の上に置いたまま、走り去ってしまった。 今回の主な目的は、イワナの産卵行動観察だった。 林道から見下ろす川辺には、ちょっと見たくなかった足跡が‥。 いたるところに動物の残した痕がある。これは鳥かリスの巣。 これもリスだろうか‥。 シカもだいぶ増えたようで、派手な角研ぎの痕もあった。 体毛も付いている。 これはクマだかテンだかの爪痕のよう。 足元にはオニグルミを食べたリスの食痕。 鳥に詳しい人は小さな獣たちにも詳しく、こんな風景を見ると双眼鏡をのぞき、アカネズミの食事場を見つけた。右側に立っているのがクルミの木。左側2mほどのところにポツンとある岩の下だ。 いったいアカネズミ何匹分の食べ痕なのだろう。 気付くとシラカバの立ち並ぶ風景になっていた。 いたるところに目を引きつける小さな風景がある。 視線を忙しなく離したり近づけたりしながら、気付き心を動かされた風景をひとつずつ取り込んでいく。 小さな沢でイワナと思わしき産卵床を見つけた。本流と連絡する小沢の河口から少し上がった所。 まだ新しい掘り跡だったので、待てば出て来たかもしれないが、先へ進む。 産卵床はポツポツと作られている。小さくて黄色く透き通る卵が収まっているはずだ。 イワナはいない。先へと進む。 堰堤があると、その上はしばらく産卵床が途切れるが、ある程度流れがつながっていると、ポツポツとまた見え始める。だが産卵行動観察には少し遅すぎたみたい。 かろうじて一匹だけ、産卵床に固執しているような魚を観ることができた。おそらくは産卵とは無関係な当歳魚を追い払っていた。オスだろうか。しばらく観察すると、数回、上流の淵にある岩の影へ泳いで行き、また産卵床へと戻ってきた。岩陰で休んでいるメスを誘いに行っているかのようだった。 しっかり観ることのできたイワナはこの一匹。 沢の上流では谷が抜けていた。今年の7月にあった集中豪雨によるものか。砂防堰堤が見事に大量の土砂を受け止めていた。 総体として固定されたイメージの細部を見れば、きっとすべてが変化している最中なのだろう。〈若林〉□
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