2017年、初めての渓流を歩いた。まだ雪があった。

残雪というよりも、まだ冬の最中。アスファルトにうっすらと積もる粉砂糖のような雪は、昨晩降ったものか。

5カ月間のオフシーズン明けで、身体も気持ちもまだ川になじまない。

魚がいそうな岩の裏あたりにルアーを投げるが、届かない。そうかと思えば岩を越えて木の枝に引っかかる。思った所にルアーを投げ込めるのは3回に1度ほど。うまく投げ込めたのに魚が出てこなければ、少し川を上り、次の目ぼしい岩に投げる。その移動の途中、身体がもたついて斜めの石に足がすべり、転びそうになる。

狙った所にうまく落せない。落とせない。落せた。出てこない。川を上る。転びそうになる。

こんなことをおおよそ20回ほども繰り返すと、投げているルアーがダメなんじゃないかと思い出して別のに付け替える。

狙った所に落とせない。落とせない。落とせた。出てこない。川を上る。転びそうになる(×20回)。ルアーを付け替える。

こんなことを3回ほど繰り返すころには、もう昼になっていて、一度川を上がり、湯を沸かしてカップラーメンを作ってコーヒーを淹れた。

食後、3分ほど寝そべって身体を伸ばし、目をつぶる。

午後の釣りは、午前中とほぼ同じようなことをひととおりして終了。結果、小さなアマゴが2匹釣れた。きれいだけど小さいなーと思って、小さいけどきれいだなーと思い直す。同行した友人がイワナを釣ったので写真を撮らせてもらう。

まあまあ、まだ季節も早いし、なまった身体でも怪我せずに川歩けたし、いいんでないのー?なんて話しをしながら、車へと戻る。

戻りながら、5カ月ぶりの釣りを終えて「渓流釣りって、こんなもんだったけな?」と思う。

もちろん、ハッとするような鮮やかなシーンに遭遇するときもある。なかなか釣れない大型が釣れたり、ほとんど一投ごとに魚が釣れたり、カモシカやカワネズミと出会えたり、苔むしたシカの角を見つけたり・・。

でも、想定外なことが何もないこともある。

予想外なことや鮮やかなことが何もない一日も、結構多い。

いつかもあったような、いつもどおりの一日。

この日もそんな一日だった。

ただ、そんないつもどおりの一日に限って、渓流釣りをした喜びってやつは、後からじわじわと湧いてくる。

この日はいつもより少し早かった。車に向かう途中、川の土手で雪に残ったシカの足跡をたどっている最中に、きた。□