
暑い日が続いています。今年の夏は、オイカワの産卵行動観察を続けています。
オイカワは各ヒレの動きにとても表情のある魚です。ヒレは水をかいて進むためのオールのような役割を持つものですが、それだけではなく、水流を感じるような感覚器の役割だったり、クジャクのオスの羽のようにバッと広げて相手に見せつけ、メッセージを伝える働きもあるように思えます。

オス同士が互いに相手に自らを誇示するような場合は、特徴のある巨大な臀ビレと背ビレをバッと開いて強さを示しているようにも見えます。

メスに対して特徴的なのは、私が「カバーリング(covering)」と呼んでいる放精・放卵直前に見せるメスへの覆いかぶさり行動です。この時、オスは胸ビレを飛行機の翼のように左右に開いてメスに覆いをするようなそぶりを見せます。そしてこの後、片方の胸ビレをパタっと折りたたんで体を倒し、メスに押し付けるように身を震わせるのです。


そして放精・放卵へ。

これはサケ・マスやニゴイには見られないオイカワ独特の行動のように思えます。

なんらかの合図になっているのかもしれませんね。
「カバーリング」は一連の産卵行動の中の1様式であり、その前後にも、オイカワならではの様式があります。全体の流れはある程度決まっているようですが、面白いのは、状況によって「時短モード」と言いますか、短縮されることがあることです。
例えば極端な例でいえば、産卵場にオスとメスが一匹ずつしかいない場合、オスとメスとの間には、実に多様な相互行動が展開されます。主にはオスによる求愛と思わしき行動となりますが、メスもそれに応じて様々な行動を見せてくれます。
ところが産卵場にオスとメスがたくさんいる場合、このペアの相互行動は、だいぶ短縮されてしまいます。産卵行動の様式がシフトするのです。
このことは、これまで産卵行動を観察してきたサケ・マスやニゴイでは感じなかったことですが、彼らにも通じる何かをオイカワたちは示してくれているかのようでもあります。
たくさんのオスとメスで一斉に産卵するマルタの産卵行動様式の理解にも繋がりそうな気がしています。
気づきは常に、実際の姿を見る中にあります。熱中症に気をつけて、観察を重ねていこうと思います。□〈若林〉
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