釣りで過ごした時間の高揚は伝えづらい。釣果もじゃまをするし、引き戻された現実に晒されると途端に色あせてしまう。そんなものかもな、とも思ってしまう。この本の一編「サマー・スティールヘッド」を読むと、釣りで過ごす時間の閉鎖性を感じる。それは悪いものではなく、持ち味のひとつのように思う。(中公文庫 1994年 村上春樹 編・訳)