焚火は明るい。だが真っ暗な山奥や川原で焚火をすると、明るさによるコントラスト効果でむしろ周囲の暗さが際立つ。底知れぬ自然との境界線を自ら作り出してしまう。この本に収められた一編「焚火」で感じるのは境界線の向こうにある闇だ。火を離れ夜にまぎれれば、そんな闇も親密感を増すから不思議。(新潮文庫 1968年)