冷たい北風から生まれたつむじ風が十字路でケヤキの落葉を舞わせる。そんな午後のひとときでした。待ち合わせ前にできた時間に、こんな本を読んでおりました。

つり人社からつい先日、発売となった『BIG BAIT SEA BASS』。

ビッグベイト・シーバス。

ビッグベイトと呼ばれる大きなルアーでシーバス(スズキ)を釣ることの魅力をまとめた一冊です。〝本邦初〟とあります。

この本を企画して撮影・執筆・デザインをすべて手掛けたのは、松本賢治さん。愛称マツケン。私が編集のお手伝いをさせていただいている『ソルトウォーター』誌でも活躍されているフォトグラファー・ライターです。

表紙を見てもわかる通り、彼はとてもかっこよく情緒的でグッとくる写真を撮影する、釣り分野屈指の名カメラマンです。

発売前からこの表紙をネットで見せられた私は、これを見ただけで軽い嫉妬心を覚えました。同じく釣りの本を作っている者としての嫉妬。いったいマツケンはどんなにカッコよい迫力のある写真満載な一冊に仕上げたのだろうと。

『BIG BAIT SEA BASS』は、マツケンが初めて自分で(編集者としてということも含めて)まとめた一冊であり、それだけに、得意とする写真で押し切った一冊なのだろうと勝手に想像をしていました。

なので、池袋のジュンク堂でこの本を見たときに、軽く裏切られた……というか、驚きがありました。

まず判型が小さい!

『ソルトウォーター』誌も含めて多くの釣り雑誌が採用しているA4変型判ではなく、ひとまわり小さなA5判というものでした。

もちろん、編集や販売的な狙いがあったうえでのことなのでしょう。でもビッグベイトという大きなルアーを扱ったムックなのに、一般的な釣り雑誌より、ひとまわり小さな判型だなんて。

そして中をパララ……と見て、またしても裏切られました。

文章が多い!

正直かつ私的な感想を述べますと、このとき、ちょっとだけ嫉妬心は薄れました。その理由は、彼の伝家の宝刀とでも言うべき情緒的かつ躍動的である唯一無二の写真が、勝手に想像していたよりもネームに押されていた印象を持ったためです。

急いで注釈を加えてさせていただきますと、この見方はマツケン写真のファンである私の勝手な思い込みとのギャップによるファーストインプレッションであるということ。なので、そんなファン心理(?)など知らない一般読者には、十分にカッコいい写真が踊った十分にカッコいいデザインの誌面であり、パラパラ……とめくっても、よい感じの一冊と見えるのかもしれません。

ですがマツケン写真のファンである私には、やや文章が写真を押しすぎているのではないかい?と思ったのです。

その第一印象で得た感想は、いまも変わらず持っています。ですが、嫉妬心を薄めるのは早計でした。

 

書かれている内容こそが、ムムム……であったのです。

 

そこには〝熱〟がありました。

自分がスゲーと思ったことを、何とかして伝えたいという熱。

「伝えたい」という気持ちが、文字の群れから迫ってくる誌面。

 

特に前半の、3人の釣り人を追ったルポルタージュは迫りました。

ルアービルドの第一人者

シーバス釣りの第一人者

ビッグベイト使いの第一人者

おそらく釣りを知らない人は、まず使われている用語にとまどい理解に苦しむと思いますし、正直ちょっと難易度は高めです。内容もかなり難易度高めのような気がします。

ですが、そこをあえて(なのかどうかはわかりませんが)多勢には媚びずにグイグイと深みへ向かっていく執筆姿勢には潔さを感じました。きっとマツケンは、自分がスゲーと思った釣りの「深み」をしっかりと文章で表現したかったんだろうな……と。そんなことを思いました。結果、その釣りの持つ「深み」を表現することに成功しているように思います。

そして狙ってなのか、結果としてなのか、釣り雑誌やムックの中でも、文章を読もう!と思わせるデザイン構成になっている気がします。なのでその点では、写真と文章とのバランスもよいものなのかもしれません。

ともあれ。撮る力と書く力、それ以前に重要なのが釣り人とマツケンとの関係の深さ。これらがしっかりと混ぜ合わさって、グイグイと〝熱〟を感じる一冊に仕上がったのだと感じました。

後半に向かってもその熱は冷めることなく、グイグイと…は続きます。

まだすべては読めておりませんが、この時点でもすでに、天賦の才を持ちつつ日々常に現場で釣り人と顔を突き合わせている松本賢治だからこそできた一冊なんだなーと思って、またムクムクと悪くない嫉妬心が湧きあがってきたのです。

こちら発行元のつり人社こちらアマゾンへのリンクです。

ビッグベイトに興味がある人はもちろん、釣りの深みに触れたい人にも読んでほしい一冊。オススメです!

 

でもやっぱり、ひとりのファンとして、さらなる希望としては、マツケンの写真がもっと見たい。

いつかぜひとも『BIG BAIT SEA BASS』写真展を、催してほしいです。〈若林〉□

 

RIVER-WALK First Issue 好評発売中☆