先週、関東平野の青く大きな川を歩いた。

そこではこの時期に川を上る者と下る者とに出会うことができた。

上る者はサケ、下る者はアユとモクズガニ。

彼らは川と海を行き来しながら生命をつないでいる生きものだ。

彼らが棲んでいる川とはつまり、彼らを見つけたところまでは海と通じている川という意味を持っていて、その事実は、出会った場所とかけ離れた景観を想像させてもくれる。

この川はサクラマスも上るが、彼らはすでに山の奥の細流にたどり着き、大海原とはまるで異なる生まれ故郷の水の匂いを懐かしんでいる頃だろう。

思い出したのは、河口から250㎞上った森の中でサクラマスが産卵をする川のこと。大きなダムの工事が始まり、森の中の産卵場は、産卵場として使われなくなった。海から帰ってきたサクラマスは阻まれた行く手におそらく少し戸惑ったのち、適当な沢を見つけて上っていったのではないか。

海からの遡上が途絶え、ダム湖が海の代わりとなり、再び大型化したヤマメが上ってくる。その経過を観察したいと思いながら、いろいろある間に2年が過ぎてしまった。

青く大きな川を歩いた翌日は、山奥の小さな沢で小さなヤマメの産卵を観た。ヤマメたちは小さな沢を上ったり下ったりしながら、たまたま出会った相手と番い、産卵行動を始めているように見える。サクラマスとは異なるパタパタとピッチの細かいメスの掘り起しが愛らしい。

人間など誰も観ていなくても毎年毎年、連綿と続いていく生きものたちの営み。川を上る者と下る者の観察は、しばらく忘れていた類の川時間を感じさせてくれた。〈若林〉□

 

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