スイッチパブリッシングの『Coyote(コヨーテ)』最新号が本日、発売となりました。

特集は「The Sound of Fishing~川を渡る風、海の音を聴く」です。コヨーテ初の釣り特集となる今号に、RIVER-WALKも取材・執筆そして一部編集にも参加させていただきました。

巻頭特集は「矢口高雄に学べ」です。

誰もが知る漫画『釣りキチ三平』。作者の矢口高雄さんが残された作品から、釣りを通して自然と語らう素晴らしさを教えてもらうことのできる構成です。

今回の特集のテーマは、釣りを通して人と自然との距離を考えることです。

釣りの魅力はとても幅広いものです。竿を通じて手元に伝わる魚の引き味はもちろん、魚との知恵比べ、釣った魚を食べる喜びや、釣り道具にこだわる楽しさ、同じ趣味を持つ仲間との時間など、人に多くの喜びを与えてくれる遊びです。なかでも数々の矢口作品がやさしく楽しく時にはほろ苦く伝えてきたのが、人と自然との付き合い方だった気がします。

今回はそのエッセンスを、ラフ画や作品の一部とともに、誰にでもわかりやすく伝えています。

矢口作品をこよなく愛する宮沢和史さんのインタビューには、矢口作品から多くのことを受け止めた側の言葉が連なります。

特集は次に「渓流への誘い」へと続きます。日本を代表するフライフィッシャーである佐藤成史さんの「イワナを巡る旅」や、水辺カメラマンの知来 要さんによる「イトウの森で想う」は、ともに川で出会った魚の魅力を伝えるフォトエッセイとなっています。佐藤さんは氷河時代以前から続くイワナの旅と、それを追いつづける自身の旅を時に情緒的に時にジャーナリスティックに描きます。知来さんは長年撮り続けてきたイトウへの想いを、釣り人へのメッセージも込めて伝えています。

テンカラ釣りの名手である瀬畑雄三さんから、サバイバル登山家の服部文祥さんが話を聞きだす「釣りへの情懐」も、特集の中でとても大切な一編となっています。瀬畑さんの一言一言に、長年川で竿を振ってきた者の至る境地とはなにかを感じ取っていただけると思います。

『RIVER-WALK』誌でもたびたびご協力をいただいている画家の成瀬洋平さんによる「オオスケ譚」も掲載されています。オオスケとはサケのこと。オオスケ譚とは東北や新潟など各地に伝わるサケにまつわる、とあるひとつの伝承です。成瀬さんが学生時代に足で集めた数々の物語が、まさに今の時代への教えとなって繋がってゆく様は、とても読み応えがあります。

後半では与那国島のカジキ漁や、壱岐の自然に近い暮らしなど、海にまつわる話も収められています。

私(若林)は「ヤマメ、北上川の渓流を降る」「釣り人の夢 幻の魚を守るために」「未来へ釣り場を残すために 天然・野生の渓流魚を増やす水産庁の試み」「渓流釣りの雑学」と、4編の記事の取材執筆を担当しました。

「ヤマメ、北上川の渓流を降る」は、二神慎之介カメラマンと、石巻在住の佐藤文紀さんのご協力のもと、北上川のヤマメとサクラマスにフォーカスをあてたドキュメントになっています。北上川は『RIVER-WALK』誌でも度々取材に訪れている川で、私自身とても思い入れの強い川です。そこで脈々とつながれてきたヤマメの命、産卵場手前にできた巨大ダム、マスという魚の存在についてなど、旅をしながら感じたことを書いています。

「釣り人の夢 幻の魚を守るために」は、「釣りながら守る」を実践する朱鞠内湖の中野信之さんと、イトウ保全に努める在野のフィールドワーカー秋葉健司さんに話を聞きながら、朱鞠内湖とイトウの今とこれからについて聞きました。カメラマンは猪俣慎吾さん。ちなみに秋葉さんは私の大学時代の友人で、今回記事にできなかったことも含め、ひさびさにとても長く話を交しました。いずれ当ブログで、そこらへんについても書いてゆけたら‥と思っています。

水産庁の試みについては、まさに昨今世界的にも注目されているNbS(Nature-based Solution)を意識させる水産庁の提案といえる天然魚・野生魚を守って釣りの資源である渓流魚を増やす試みについて、お話をお聞きしています。

渓流釣りの雑学では、雨と渓流魚の関係や「マス」と言う呼び名の旅路などなど、私の持てる知識をフル稼働して、知らなくても困らないけど知る時になる雑学を書いてみました。

一冊を通し、一本の撚糸が通っているような、そんな釣り特集。

釣りから享受できる楽しみは幅広いものですが、そのなかにある「自然との語らい」について、これほどまでにまとめられた特集はとても貴重だと思います。ぜひこの機会に、釣りを趣味とされている人も、釣りをしたことがない人も、多くの人に読んでいただけたらと思っています。

最後に、今回の釣り特集はコヨーテが何度も特集を組みとても大切にしている星野道夫さんの狩猟に対する考えにも通底したものとなっています。特集の前に池澤夏樹さんのエッセイ「狩猟民の心」が置かれています。釣りを書いたものではありませんが、今回の特集のはじまりに、これほどふさわしいエッセイはあるだろうかと、個人的には感じています。

PS 余談ですが、弊社の『RIVER-WALK』誌は『Coyote』に導かれてできあがった雑誌です。私にとって『Coyote』はそんな雑誌でもあります。〈若林〉□