ここ数日、「オヨギデカミミズ」の同定をしたいと川を覗いているのですが、なかなか出会うことができません。いつどこでも出会えるわけではないのです。

代わりに目立つのが「黒川虫」ことヒゲナガカワトビケラです。川ミミズを探していると、羽化した抜け殻が流れてきます。蛾のような成虫も飛び交っています。川ミミズのいる川には必ずと言ってもいいほど棲んでいる隣人です。

そこで今回は「川ミミズの隣人」シリーズと題しまして、ヒゲナガカワトビケラをご紹介したいと思います。

こちらです。川遊びをしたことのある方なら、おなじみかと思います。こちらは石をひっくり返すと転がるように出てくる黒くて大きなイモムシのような姿をした幼虫となります。

糸のようなもので、川底の石同士をくっつけて棲家を作り、その中に潜んでいます。

こんな感じに出てきます。

幼虫の右側に見えるのが石と石をつないでいるネット状の糸ですね。

たくさんいます。河原の広がる、ある程度流れのある川ならば全国どこにでもいる感じです。汚れにはそこまで強くはないようなので、汚染のひどい川にはいないと思います。

近所の川ではこんなところに棲んでいます。川ミミズを掘ると、たいていの場合、姿を現します。ただ、川ミミズよりはもう少し流れの強いところを好む傾向があるようです。

好きなのはこんなところ。このような川底の場合、小石や砂礫の下には砂か泥があるものですが、ヒゲナガカワトビケラの幼虫は石の裏や間、そして川ミミズは石や砂礫とその下の砂や泥のちょうど中間にいる感じです。

干上がった川底の断面です。石の下に砂の層があり、そこに川ミミズがいます。

ヒゲナガカワトビケラの幼虫は、川ミミズよりももう少し石の裏と川底の表面を行き来して生活している印象です。幼虫はこの写真にあるように糸でネットを作り、それで流れてくる有機物を集めて食べるのだそうです。

おそらく…ですが、川ミミズも夜になると川底の上に這い出してきますので、ヒゲナガカワトビケラのネットに溜まった有機物を食べているのではないかな?と妄想を膨らませています。そんな姿をいつか観察してみたいです。

ネットは小さいものから大きいものまで色々あります。

これは脱皮している瞬間?なのではないかと思っているのですが、どうでしょう(ひょっとしてヒゲナガですらない別の種かも・・)。脱皮するのかどうかも調べてみないとわからないのですが、きっとしますよね。

ヒゲナガカワトビケラの幼虫は、長野県などでは「ざざ虫」と呼ばれ、食用にもされています。いる場所には大量にいますので、多くの動物が食べていることでしょう。

私の知る限りでは、ハシボソガラスは頻繁に食べています。このように石をひっくり返しては裏についている幼虫をくちばしでつまんで器用に食べます。

特に冬場は他の食べ物が少ないこともあるのか、頻繁に浅瀬で食べている様子を観察することができます。また、若いカラスや片足を欠損したカラスなど、通常の狩りがおぼつかないやつらにとっては重要な食べ物であるような印象を持っています。

浅瀬にダイビングしたカワセミが幼虫をくわえて上がってきました。石の裏ばかりではなく、時に川底を這っていることが、カワセミの狩りからも想像できます。

カルガモ。これはおそらく砂礫底に産み落とされたニゴイやマルタウグイの卵を食べている姿ですが、彼らもきっとヒゲナガカワトビケラの幼虫だって食べていることでしょう。

魚であればコイ、そしてニゴイなど川底をスパスパする魚たちも食べていると思います。

幼虫は大きくなると、このようにマユのような蛹室を作ります。この中でサナギに変態します。これはまだ幼虫の姿です。サナギになり、いよいよ羽化する段階になると、サナギのままマユの中から抜け出して水面へと浮上し、多くは水面で羽化して飛び立つと言われています。

こちらはサナギ・・だと思います。石の間から出てきました。特徴の長いヒゲ(触覚)や脚など、ほとんど成虫の姿をしていますね。おそらくは羽化寸前の状態だと思います。体の表面は撥水加工が施されているようでした。

そして羽化。

朝方、川を観察していると、このような抜け殻が流れてきます。

産卵遡上してきたマルタウグイは時折、ライズ(水面の捕食行動)をするのですが、そんな時、目立って流れているのはヒゲナガカワトビケラの抜け殻ですから、おそらく羽化寸前で流されているのを食べていたりもするのではないでしょうか。

流れの溜まりには、このように抜け殻がたまります。

そしてこちらが成虫です。真ん中の足がとても力強い印象なのですが、マユから抜け出して水面に泳ぎ上がる時に、この足が働いている、という記述もありました。長いヒゲ(触覚)ですね。大きさは体だけで2.5〜3㎝ほどでしょうか。トビケラの中では大型の種類となります。

抜け殻。

成虫の長い脚も一本見えますね。

成虫は写真のセグロセキレイやハクセキレイ、キセキレイなど小型の鳥が好んで食べているようです。姿を見たことはありませんが、ムクドリやモズなどもきっと食べていることでしょう。

川辺ではこのように、おそらく鳥に食べられた痕も見ることができます。硬い脚や羽は残してしまうのでしょうか。体の部分が美味しいことは想像つきますね。

川辺の桑の木の葉にも、残された?羽が・・。

近くではなんと、ワカバグモのメスがお食事の最中でした。頭からかじっていますね。

特に春から初夏にかけて羽化の目立つヒゲナガカワトビケラの成虫は、陸上の生きものたちにとって、ボーナスのような季節食に違いありません。「今年も鮭が帰ってきたぞー」ではなく「今年もヒゲナガが上がってきたぞー」ってな感じ?

流下する昆虫を食べる魚にとってもそれは同じで、ヤマメなどは大好物にしていますよね。

フライ(毛針)のパターンには、ヒゲナガカワトビケラを模したパターンが数多くあります。この毛針を水面に流したり、「フラッタリング」といって、羽化したての成虫が水面で羽ばたく様を真似したりしてヤマメを誘います。

こちらはそのものズバリ、ヒゲナガカワトビケラの成虫を模したルアーです。大きなヤマメが釣れそうです。

ルアーやフライの釣りは、生きもの同士の関係性を利用するところが面白いんですよね。

さて。そんなヒゲナガカワトビケラですが、卵はどんなところに産むのかというと・・なんとメスが潜水をして石の裏に卵を産むそうです。

苦手な方はすみません・・。おそらくこちらがヒゲナガカワトビケラの卵かと思います。

こちらは別のトビケラでしょうか・・。色違いが数種類。

 

・・と、ここまで川ミミズの隣人であるヒゲナガカワトビケラをご紹介したところで、昨晩の話を少し。

こんな感じの川です。掘ると川ミミズが出てくる川なので、夜の姿を少し見てみたいとのぞいてきました。

繁殖期のヨシノボリのオスがいました。ヒゲナガカワトビケラのネットも見えますね。ネットで固められた石の隙間や裏などに産みつけられた卵を守っているのかもしれません。

デカいウキゴリも・・。10㎝ぐらいかな。長さよりも太さがとても目立ちました。

川ミミズは水辺に一匹だけ。おそらくこいつは「マッチョ虹色川ミミズ」。

泳いでいるやつを見ることはできませんでしたが、とりあえず一匹見れて満足。

そして川辺の護岸には・・

ヒゲナガカワトビケラの成虫がたくさんいました。

水面でフラッタリングしているやつも。羽化したてでしょうか。

そしてこちらは、まだ半分?サナギの状態のよう。胴体を懸命に動かしていました。羽もまだ伸びていません。水面羽化に失敗したやつなのか、そもそも上陸してから羽化するタイプもいるということなのでしょうか。

そして・・。なんとゲジゲジ(オオゲジ?)に狩られてしまったものも・・。

よく見ると、すでに頭はかじり取られ豊富な腕(脚?)によって押さえつけられています。クモと同様、頭から食べてゆくのですね・・。

 

やはり自然界はラクではないなと、川ミミズも気をつけなさいよと・・。

そんなことを思い、川を後にしたのでした。〈若林〉□

 

おまけ:頭に猫の顔のような模様が見えますね。目があうとそらせない・・。

 

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