私の歩いている埼玉南部の川。

まちなかの小さな川ですが、東京湾からここまで川づたいにやってくる生き物がいることが、ちょっとした誇りです。

マルタウグイ、アユ、ハゼ、ボラ、そして今回、川ミミズの隣人として紹介するモクズガニです。

手に毛が生えていて、まるで藻屑をつけているよう・・というところからモクズガニと名がついているようです。

このカニ、高知県の四万十川や栃木県・茨城県の那珂川、静岡県の狩野川はじめ、清流と呼ばれる多くの川では「ズガニ」などと呼ばれ、食されています。正直、その出汁はかなりの美味しさです。

そのモクズガニが、我が近所の川にも棲んでいます。

多くの場合は何者かに食べられた痕として姿を見せてくれます。

カラスでしょうか?

こんな感じ。また小型のものが水中で死んでいる様子も。

モクズガニは、秋になると産卵のために海に下ります。卵から孵化する子どもが海でないと生きられないためです。

ちょうど同じ頃に川を下るアユも、その子どもは海で育ちますが、産卵は川で行います。川で生まれたアユはそのまま流されるように海にまで下り、そこで成長して春に再び川に上ってきます。

一方、モクズガニは親ガニがちゃんと海まで下り、そこで相手を探して交尾をし、産卵に至ります。そして稚ガニまで成長すると、ちょうど今頃から夏にかけて川に上ってくるようです。

このところ、夜の川で「オヨギデカミミズ」を観察していると、しばしばモクズガニと出会います。

やや雨で増水した川の中を素早く歩いていました。

そして私に気づくとズズズ・・っと砂礫の中に潜っていきます。

昨晩は今にも食べてしまいたいぐらい大ぶりなモクズガニがコンクリートブロックの隙間に挟まっていました。モクズガニは稚ガニのうちに川に上ると、そこで2〜3年ほど暮らし、成熟する秋に産卵のために海に下ります。一度海に下り、産卵をすると、サケのようにオスもメスもすべて死んでしまうとのことです。川は成長する場所、なのですね。

この「オヨギデカミミズ」を観察している川にモクズガニがいるということは、ここと海とが繋がっていることを表しています。そう考えるとなんだかうれしくなります。ただ、この川には途中、1mほどの垂直の段差が少なくても2箇所はあることを知っています。つまり、カニたちはその垂直の壁を登ってくる、というわけです。

おそらくは稚ガニのうちに上流の方まで上っていくのだと思いますが、ここまで上ってこなくても、この途中でもモクズガニは見つけることができますから、途中だっていいわけです。それでもなお、先へ先へと進み、このミミズ川まで到達したモクズガニは、いったい何を求めてここまでやってくるのでしょうか・・。

調べると食性はカワニナなどの貝類やミミズ、小魚、水生昆虫などとされています。

ミミズ!

そう、ミミズを食べるようです。砂利の中にも潜っていけるカニですから、きっと川ミミズも食べていることだと思います。

ちなみにオスには大型になるものと小型のものと、二つのタイプに分かれるそうです。サケ科魚類にも、小型戦略を取るものがいますが、とても興味深い限りです。

こちらは那珂川上流産。おそらく産卵のために川を下る直前のものです。

こちらは北茨城の河口域のもの。産卵のために降ってきたやつですね。

今は5月。そろそろ稚ガニが川を上ってくる頃でしょう。

稚ガニは隊列を組んで飛ぶように川を遡上します。その様子を那珂川のriverlineさんが撮影に成功しています。垂直護岸を上る様子も(こちらからご覧になってください)。

こんな姿を地元の川でぜひ観察してみたいものだと思っています。そしていつか、モクズガニが川ミミズを食べているシーンも・・。〈若林〉□

 

【お知らせ】川辺の自然観察をまとめた一冊、『武蔵野発 川っぷち生きもの観察記』発売中です!(アマゾンの販売ページはこちら

★RIVER-WALK Vol.1~Vol.3発売中です!★