今日はとても寒い一日ですね。手足の末端が冷えて痛い・・。
釣り人の楠ノ瀬直樹さんが亡くなってしまいました。
享年56歳。ルアーデザイナーをされていた株式会社エイチ・エー・エルのHPにも逝去の報せが載っています。 私は釣りの雑誌を作ることを仕事にしており、楠ノ瀬さんにはその誌面に登場していただき、釣りという遊びの良さをたくさん教えていただきました。 最も近いところでは、海のルアーフィッシング専門誌『ソルトウォーター』(地球丸刊)を私が担当させていただくようになった2012年5月号から2015年12月号まで、3年半にわたって「潮に訊け」という連載をしてもらいました。全44回。ライター宮崎紀幸さんによる聞きまとめ。内容は、釣りの良さ、面白さ、美しさ、罪深さ、素晴らしさ・・について。そして個人的に言えば、私がとても強く人に伝えたいのにうまく言葉にできないこと。 私の知る限りでは、この「潮に訊け」が、楠ノ瀬さんの釣り雑誌での最後の連載になってしまったのだと思います。
楠ノ瀬さんはご近所だったこともあり、数年前は何回か釣りもご一緒させてもらっていました。近所の川のナマズ釣りやシーバス(スズキ)釣りです。2010年前後。 なぜそんな具体的な年がでてくるかといえば、楠ノ瀬さんや、前述のライター宮崎さんとの遊びの釣りがそもそもの大もとになって、2010年に一冊の本ができたからです。 こちら。『ナマズ釣り大全』(地球丸刊)です。
「我が愛しのジッターバグ」という、ナマズが大好きで楠ノ瀬さんも大好きというアメリカの古いルアーに向けてのラブレターのような記事を、ライター宮崎さんが楠ノ瀬さんに取材をして作成。私は楠ノ瀬さんの釣りに対峙するスタンスを紹介する「もっと深く!」という記事を担当しました。
書くことはもう決まっていたので、あとはナマズの写真だけ撮りに行こうと。70㎝が釣れるからさと。でもそれはとても大物で、いくらなんでも無理でしょう・・と。そんなことを話しながら、それでも楠ノ瀬さんのことだから・・と、ちょっと期待して現場の川へ。6月のこと。
編集作業も大詰めを迎えていたタイミングだったので、あまり睡眠も十分ではなかったのですが(というよりほとんど寝ずに4時間自走して)、「どうせくるならボートに乗せてやるからタイラバを覚えていけよ」と、なぜか夜明けと同時に海に出て、マダイとあとは、でっかいエソを釣らせてもらい・・・。 昼過ぎからは、これは私のわがままなのですが、そんなに大きなナマズがいるのなら、ぜひとも昼のうちに水中撮影をしてみたいと川に潜り、そうなると「なんとか撮らせてやりたい」という楠ノ瀬さんの思いも止まらず、あっちはどうだ?こっちはどうよ?と、大人ふたりで川遊びを半日して、ようやく一枚撮影に成功。 水、にごりすぎ・・。
そして夕方に。
あー早くから遊んだ遊んだと・・・。 でも待て、お仕事はこれからだぜと。 夕まずめの川へ。
膨らみかけた半月、微風の夜でした。 すぐ釣れる、とは聞いていませんでしたが、首からカメラを下げて釣り進む楠ノ瀬さんの後を追うこと3~4時間ほど。どんどん進んでいっちゃうから、だいぶ距離も空いてしまい・・。 さすがに前夜もほぼ寝ず船釣りと川遊びをした私は、急に身体の電池が切れてしまい・・・と同時に、自分のわがままでつきあわせた水中撮影は棚に上げ、早朝のボート釣りなんかに自分を誘った楠ノ瀬さんに言いようもなく腹が立ってきはじめ、これまで長いこと取材をしてきて後にも先にもこのときだけなのですが、先を進む楠ノ瀬さんにひと声もかけずに暗闇の中、自分の車にノシノシと歩いて戻って寝てしまったんです。
ドンドンドン!! ドンドンドン!! ん?・・誰かに窓ガラスが破られるぐらいの勢いで車を叩かれている。あ~・・くすのせさん? すごい形相だ。 「ばかやろー!! おめーなに消えてんだよッ!! 川に沈んだかと思ってずーっと探してたんだぞ!!」 時計を見ると午前2時すぎ。 その後も殴られんばかりの罵声を浴びせかけられた気がするのですが、こちらも寝ぼけてよく覚えておらず、でもその後に 「釣れたよッ、行くぞ!」
こうひと言、発したかと思うと、川を上流に向かって歩き始めたのです。 ふたりともひと言も発せず、歩くこと・・・40分ぐらい?(とにかくどこまで行くのかと思ったのを覚えている) 暗闇を照らすと、ボーッと白い影が。・・・デカい・・ メジャーで計測すると68㎝。 「まー70㎝にはおよばなかったけど、これでいーだろ・・」
帰り道も、ほぼひと言も発せず。
あまりその日、その後のことは正直に言うと覚えていないのですが、最後に撮った一枚が午後の紅茶ミルクティーを笑顔で飲んでいるカットだったので、まーいろいろ疲れたけど楽しかったよな・・みたいなやりとりで終わったんだと思います。
で、翌日、撮影をした写真をパソコンで見ると・・・・ ン? このナマズ・・・。
黄金じゃん!?
すぐさま楠ノ瀬さんに電話をすると・・「へ~、そうなの? 確かになんかヘンだったかもな」と。 そして後日、あのナマズはすごかったですね~!なんて話をすると・・「ああ、俺あの日、そいつまた見たよ。お前がそんなこと言ってたから探したよ。確かに黄色だったな」と。
でも、あの夜には気づかなかった。
それだけの話なんですが。
・・・と、ここまで書いて、なんでこんなこと書いたんだろうと、いま思っています。楠ノ瀬さんのことを何か伝えたいと思ってたのに、単なる一夜の思い出話を綴ってしまいました。 消そうかどうか1分ほど悩みましたが、これも何かにならないか・・と思い、そのまま残しておくことに。
ともあれ。 楠ノ瀬さんからは短い時間の中で、あまりにも大きなことを受け取ってしまったので(それはあくまでも私の個人的な受け止め方の問題なのですが、つまり楠ノ瀬さんはそんなに大きなことを放ったつもりでもないのだと思うのですが・・)、それを嘘なく、できるだけ忠実に、どう伝えていったらよいのだろうか・・そんなことをボンヤリと考えている、いまです。 だからもうひとつだけ。もう少しまとまりよく。
たしかそれは、楠ノ瀬さんと初めてプライベートで近所の川で一緒に釣りをした夜、だったかと思います。 それまでも「取材」という形では何度かご一緒させてもらっていたのですが、なんてことのない釣り・・といったらなんですが、まあホントに近所の川にちょっと・・といった感じの釣りですよね。 このときもルアーは前述のジッターバグ。そして狙っていたのはナマズです。 ふと見ると、楠ノ瀬さんは、川には不用意に近づかず、水際からは10mぐらい離れていましたか。草むらみたいなところからピュッとジッターバグを投げました。ひゅー・・ポチャン・・。 パペポペパペポペ・・(水面で泡をかんでそんな音がするんです)と水際まで泳がせてくると、カラコロカラコロカラコロ・・・と。 え?・・。 そのまま川岸でジッターバグを引いて(転がして)いるんです。 なんすか、それ・・。
聞けばこれは、ナマズに対するひとつの演出なのだと。 自分が動かしているジッターバグは、ナマズにとってはひとつのエサとなる生き物じゃなくちゃならないわけだから、そいつが急に水面でジュボッと飛び上がったりしたら、ナマズはかなりビビってしまうだろうと(普通、手前まで巻いてきたルアーは自然とそうなるわけです)。 だから、ちゃんと陸地まで辿り着きました。カラコロカラコロ・・と陸地を歩いて去っていきました。この場合はそんなストーリーを作ってやらないとダメなんだと。 もちろん、いつも岸までルアーを引いているかというとそうではなく、そのときの状況、あるいはキブンにもよるのだと思います。 でも私はそのとき、その後に続く言葉を、ひとつの「魔法の言葉」として受け取ったんです。
「すべての一投は次の一投に繋がっているからな」
すべての一投が、次の一投に? そして次の一投は、さらにその次の一投に・・・。
水面にルアーを投げ入れた瞬間から、水面下の魚とのやり取りは始まっていて、それは一投ごとにリセットされるわけではない。そこにいる魚は前の一投もちゃんと見ているし、その一投を見ることによって、次の一投に対する行動を定める。じゃあ、そんな魚に対して次の一投は・・・どうする? 「すべての一投は次の一投に繋がっているからな」 このひと言が私に意識させたのは「水中にいる魚の視線」でした。 水中の魚はすべてを・・見ている? 少なくてもこちらが思うよりもだいぶ・・見ている。 「見ている魚」が、自分が放ったルアーについて、どう思っているのかを想像すること。想像をしてみて、だったら次はどうしたらいいのかを考えること。 それまでと同じことをしてるのに、ひとつの言葉ががらりと変える。楠ノ瀬さんのひと言で、自分の釣りが豊かになった。
振り返り。 釣り雑誌って、もっと釣るための方法はたくさん載っているけど、もっと釣りを豊かにする方法って、あまりうまく伝えられていないよなあ。
でも釣りって遊びだから、大切なところはそこだよなあ・・。
結局、この話もうまくはまとまりませんでしたが・・。 そんなことも楠ノ瀬さんに考えさせてもらったことのひとつです。□
|
残念です。
Pingback: RIVER-WALKブログ【受け取れるとき】 | RIVER-WALK
素敵なお話しでした
直ちゃんの事忘れないでくださいね
私の大切な人なんです
①コブラと元気玉でトーナメントでピン取れたとお礼言ったらラバージグくれた。
②マージャンは強すぎて歯が立たなかった。
③一緒に行ったシーバス釣りはビックリしたし、面白かったし、勉強になった。
遅ればせながら訃報を知って、今あまり釣りにいけていないんですが、
釣りを大事にやっていこうと思いました。
偉大な大先輩のご冥福を願っております。
昔、ロドリで楠ノ瀬さんの釣りに対する姿勢を知ってからずっと憧れの人でした。
メディアに露出してる方の中では異色でしたが、「本物の釣り師」だったのだと思います。
釣りからしばらく離れていたため、既に亡くなっていたことをいま知りました。
心からご冥福をお祈りします。