突然ですが、「河床間隙水域」ってご存知でしょうか?

私はこの本を読むまで、この呼び名を知りませんでした。

『流されて生きる生き物たちの生存戦略』(吉村真由美著・築地書館)

「驚きの渓流生態系」と副題にあるように、渓流域の生態学入門となる一冊です。まだ1/4ほどしか読んでいないのですが、わかりやすい文体で、渓流という自然環境を、あっちからこっちから、実にさまざまな視点で解説してくれる良書です。なにより川は動いていることを強く実感させてくれるところが、とても良いと思っています。川の動きとは水だけにあらず、小さな石や砂から大きな岩、水生昆虫、地形、蛇行、河畔の木々に至るまで、ありとあらゆるものが動いている、そんな川のさまざまな動態を、この本は教えてくれます。

話を戻します。

この本で知った「河床間隙水域」とは、まさに私が観察を続けている川ミミズの暮らしの場です。川底(河床)の下に広がる水の存在している場所・・といったところでしょうか。伏流水の流れる場所もまた、河床間隙水域のひとつです。

川ミミズの主な棲家は川底に敷き詰められた小石と、その下に広がる砂地や泥地との隙間となります。石をどかすと、その裏にいる場合もありますが、多くの場合、石の下の砂地の中に少しだけ潜った状態でいます。

今朝も少しだけ、手がちぎれてしまうのではないかと思うほど冷たい水の中、まるで「シャンハイ」という麻雀牌の山を崩すゲームをするような趣で、川底の川ミミズを探しました。

一匹だけ見つけることができました! これはおそらく「マッチョ虹色川ミミズ」です。石をいくつかどけると、小さなエビと一緒にいました。体の半分以上は石の下に広がる砂地に埋もれています。

まさに、河床間隙水域の住人です。

少しずつ周囲の石をどかしていきます。

まるで遺跡を掘り出すかのように、少しずつ少しずつ・・。

地中に埋もれた龍がごとし!

さらに掘ると、環帯も見えてきました。成体ですね。

この光沢を見てください。これが「マッチョ虹色川ミミズ」の名のゆえんです。

実に美しい・・。

ブルーなシュリンプもおりました。

カワゲラの卵?とミズムシも。

ともあれ、日中の川ミミズは、このように河床間隙水域に潜んでいることが多いのです。

ですが私は、こいつらは夜になると、(いつもではないにせよ)川底を徘徊するのではないかと考えています。

いくつかの川ミミズで、徘徊はすでに観察しています。その様子を見ると、なんとなく食べ物を求めて徘徊しているように感じるんですよね。

川底は土壌や腐植とは異なり、ミミズの食べ物が少ないのではないかと思うんです。私が主に観察しているのは流れが比較的早い瀬であり、そんなところは餌となる有機物の多くが流されてしまうのではないかと思うからです。

なので日中は河床間隙水域に隠れ、夜になるとモソモソと這い出しては餌を求めて徘徊するのではないかと・・(そのひとつはヒゲナガカワトビケラの捕獲網にかかった有機物ではないかとも考えています)。

そんな私にとって、この本『流されて生きる生き物たちの生存戦略』に書かれていた次の文章は、ちょっと興奮するものでした。

(引用)岩の下や河床間隙水域は、河床基質の上よりも流れへの露出が少なくなるので、生き物の避難場所となり得る。しかし、付着藻類、落葉、懸濁粒子など、多くの生き物の餌がたくさん存在しているのは河床基質の上となる。こうした餌を得るためには、河床間隙水域などから河床の上に出てこないといけない。河床間隙水域ではこれらの餌を得ることができないので、恒久的な避難場所にはなり得ない。河床間隙水域に生息している場合は、河床間隙水域と河床基質との間を毎日行き来しなければならないことになる。(引用終わり)

川ミミズの場合、河床間隙水域の表層にあたるところにいますので、いくらかはその場でも餌を取ることはできているかとは思うのですが、やはり時には摂餌目的で川底を徘徊する必要もあるのではないかと・・そんな妄想をモクモクと膨らませたのでした。〈若林〉□

 

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