昨日の朝、近所の川でニゴイの産卵を観察しました。

先週ぐらいにもう終盤かな?と思っていたのですが、まだ新しく上がってくる群れはいるようです。マルタウグイは一気にやってきて一気に去ってしまう印象がありますが、ニゴイはもう少しだらだらと産卵期が続くような気もします。

その中で、初めて観察できたのがこちらのシーンです。

なんと1匹のオスが陣取る産卵場に、2匹のメスが卵を産みにやってきている状態です。

近所の川で私が観察している中では、このシーンは初めて見ました。

対してメス1匹に対して複数のオスがいるシーンは普通に見かけます。

こんな感じに①産卵場を占有するオスの後ろには下位のオスがいて、②占有するオスは時折、下位のオスを追い払う行動を取ります。

オス同士の力が拮抗していると、ご覧のように激しくダッシュを競い合ったり、相手に突進したり頭突きをしたりと、激しく争います。これはサケやイワナなど、サケマスにもよく見られるシーンでして、こんなニゴイの姿を見ては「ああ、サケマスに似てるなー」と思っている次第です。

ただ1点、サケマスとニゴイでは大きく異なる点があります。

それはニゴイのメスが産卵床を造らない点です。

これはヤマメの産卵行動風景ですが、ご覧のように、メス(左側)は横たえた体を波打たせて川底の砂利や砂を巻き上げ、卵を産むための巣(産卵床)を造ります。そのため、自分が産むと決めてから産卵床造りをしている最中に他のメスがやってくると、激しく突進して追い払います。

対してニゴイのメスは自分で産卵床を掘ることはありません。

ニゴイの場合は砂利を掘ったりはせず、元々産卵に適した水通しの良い砂利底の瀬を、オスが陣取り、そこにやってきたメスを招き入れて産卵を行います。そのため上の図のように陣取っているオスは、外から別のオスがやってくると威嚇や攻撃を行って追い払うのです。

ニゴイメスは、そもそもサケマスのメスのように巣造りの苦労もしていませんから、メス同士で争うことはないんじゃないかな・・と思っていたのですが、なかなか観察の機会には恵まれませんでした。

これは私の観察に限ったことですが、産卵場の瀬にはメスに比べてオスの方が多いのが普通なのです。オスは常に周囲に複数匹いて、メスがいなくても、条件の良い産卵場を巡って陣取り合戦をしています。メスはそこにフラ〜っとやってきては、条件の良い場所を占有しているオスに誘われて産卵をするのです。そして産卵を終えると、すぐに瀬から一度離れてしまいます。なので一匹のオスが陣取る産卵場に複数のメスが登壇していること自体が(私の観察する川では)珍しいのです。

観察していて興味深かったのはオスの行動です。上に体が半分だけ見えているのがオスです。

オスはしばしば、メスの頭に自分の体を震わせながら擦り付ける「求愛行動」をしますが、この時、メス同士の間に割って入るようなルートをあえてとっているように見えたのです。

右側にいる茶色いのがオスです。

メス同士の間を通り過ぎようとしたように見えましたが、うまくいかず、メス同士はさらに近づいてしまいました。ただ、これだけ近づいてもメス同士の威嚇や攻撃行動、頭突き、突進などは見られませんでした。やはりニゴイのメス同士は争わないようです。

ヤマメやサケなどのメスは、産卵床造りにエネルギーをかけていますから、その場所を取られてなるものかと争うんですね。ヤマメやサケのオスは場所に固執するというよりも、卵を産みそうなメスに固執して、やはり互いに激しく争います。

一方、ニゴイの場合、メスは産卵する場所にエネルギーをかけていませんので、争う理由がないのかもしれません。一方のオスは、条件の良い場所や、卵を産みそうなメスを占有するために、激しく争うのです。

では、ニゴイのメスは「条件の良い場所を占有しているオス」を巡って争うことはないのでしょうか・・? 

魅力的なオスを独占しようとするメスがいたら、それはそれで面白いのですが、どうなんでしょうね。これはあくまでも妄想でしかないのですが、おそらくニゴイのオスは何度も放精を行うことができるのではないでしょうか? 

ヤマケイ新書『武蔵野発川っぷち生きもの観察記』にも、その辺りのことを書いていますが、ニゴイのオスはきっと絶倫なのだと思います・・。

これもまたニゴイの特徴ですが、同じニゴイのペアが約1時間の間に8回もの放卵・放精行動を行ったのを観察したことがあります。メスもオスも小出し小出しで産卵をしているのかもしれません。そう考えると、魅力的なオスを巡ってメス同士で争わなくても、自分もそのオスとつがうことができるとわかっているのかもしれません。

オスはメス同士が近づこうとすると・・

間に入って離します。

間に入って離します。

間に入って・・

離します。

間に入って・・

離そうとするのです。この行動にはどちらか片方への「求愛行動」も含まれているように見えますので、偶然なのかもしれません。ただ、2回ほど、じゃま?だと思ったメスに対して軽く口先で押すような行動も見られました。

この2匹のメスは、産卵が近そうでしたが、結局不発に終わりました。そのような意味では、やはりしっかりと1匹と向き合う必要があるのかもしれません。オスはできたら1匹ずつを相手にしたいのかもしれませんね。

ちなみに、同じく砂利底を産卵場とするマルタウグイやアユは、オスもメスも争うような素振りは見せません。先を争っておしくらまんじゅう状態になることはあっても、互いに威嚇や攻撃を行うことはないように思います。

これは場所を占有するよりも一気に多数の群れでオスもメスも入り混じりながら産卵をするためなのかもしれません。あまりに数が多いと、場所を占有しようにも追い払う他の魚が多すぎて、そこに固執するのは得策ではないのかもしれません。最初に書いたようにだらだらと産卵期の続くニゴイに比べて一気にまとまって産卵することも関係しているのかもしれません。

そのような意味で、今気になっているのは、近所の川よりももっと大きな川で、大きな群れで遡上してくるニゴイがどのような産卵行動を行っているのか?ということです。

群れがあまりに大きくなった時、ニゴイの産卵行動はどのように変化するのか。いつか観察したてみたいです。〈若林〉□

 

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