川ミミズの環世界を感じに、昨晩も仕事帰りに少しだけ川へ。まずはそこで見届けた貴重なシーンについてお知らせします。

(おそらく)ヒゲナガカワトビケラの新しいフィルターネットに引っかかった有機物をモグモグと摂餌しているような姿を見せた(おそらく)フトスジミミズです。

途中で一回、ネットの主と接触し、ビクッとして後退しましたが、再びモグモグと。一度離れてからもう一度。3度ほど見ることができました。

興味深いのは、そこに固執しているわけでもなさそうだったこと。吻端で探り探り動き回り、餌を食べられそうなところで終始モグモグしているわけですが、偶発的に?見失うと、そのまままた離れてしまうといった感じ。ミミズは目があるわけではありませんから、接触して初めてわかるのかもしれませんね。

それはそうと、もう一つ、とても興味深いシーンに遭遇しました。護岸の壁でフトスジミミズがモグモグしていると、そこに偶然?いた小さなイシビルの仲間でしょうか。そいつも吻端を伸ばしてゆらゆらしていたんです。ミミズの吻端がそいつに触れると・・スポッと! なんと吸い込んだのです。そこからはもう、特撮怪獣映画のような迫力。まるでグドンがツインテールと戦うかのような、掴んだままのぶん回しをします。私はといえば、絶好のタイミングでカメラの電池がフッと切れ、慌ててアイフォンに切り替えるも遅し・・。伸び切ったヒルはそれでも踏ん張り、遂にミミズは離してしまったのでした。

ちなみにミミズが弱ると、イシビルの仲間は逆にミミズの吻端から内部に入り込みモグモグしたりもします。なんだか色々すごいですよね・・。

(ちなみに私が最も好きなウルトラ怪獣であるツインテールはエビの味がするそうです。美味しそうですよね・・)

さて。

昨日から始まりました「川ミミズの環世界」。まず私が気になっているのは、川ミミズならではの環境要因である「流れ」です。一般的に土壌中に潜っていたり、陸上を這っている状態と最も違う点は何かと言えば、それは川の流れなのではないかと思いました。

私が観察している川ミミズがいる場所は、川の中でも、ほぼ「瀬」と呼ばれる場所でして、深く水の溜まる「淵」とは違い、まあまあな流れが川底を洗っています。その流れの中で、川ミミズたちは踏ん張りながら、時に流され、暮らしています。

川ミミズは河床の上を、体を伸縮させながら進む蠕動(ぜんどう)で進んでいきますが、その方向性を探るかのように、体全体の1/3ほどの前方部をヘビの鎌首のように振り上げて、ゆらゆらと流れを感じているかのような姿をよく見せます。その上で、進むべき方向を探っているかのような。

ミミズは視覚を持ちませんが、たいていは土壌中に暮らしていますので、体全体が土に触れています。坑道を作るミミズはもちろん、表層で坑道を作らないミミズも周囲が土や落葉に触れていることで、自分の居場所を確かなものとして認知しているのではないかと思います。

河床の砂礫中に潜む川ミミズの場合も同じでしょう。土壌が砂礫に変わりますが、体の周囲を砂礫に触れさせていることで、自分の位置は確かなものとなります。

河床を這い回っている川ミミズの場合、この「自分の位置を確かめる」根拠がかなり薄くなってしまうのではないでしょうか。お腹側が河床の砂礫に触れてはいますが、一度、這い出してしまうと、重力が地球の1/6である月面を歩くような不安定な状態となります。私は水中撮影も趣味にしていますので、流れのある川底で体を安定させる難しさは想像できますが、浮き上がるとそのまま流されてしまいますから、体のどこかを周囲の河床や岩、木の枝などに接触させて流されないよう保持しなければなりません。

川ミミズも同じで、流れが強いところでは、尻尾側を砂礫の中に突き刺したり、石の周りにオナガザルのように巻き付けて保持し、前方1/3でクライマーのように次のとっかかりを探します。

流されてしまうほど流れが強いところでは、体をどこかに保持しながら進むことになりますが、そこまでの流れでない場合は、体を伸ばし、伸縮の蠕動運動で器用に進んでいきます。ただ、この時も何を感知しようとしているのか、何を探しているのか、前方1/3を流れに当てて、探っている様子をよく見せるのです。

私は思うに、目の見えない川ミミズにとって、流れとはすなわち「方向性」なのではないかと思います。

私たちで言えば、目をつぶって風上に向かって歩くような感覚でしょうか。流れは「押し」として、川ミミズの体に「方向性」という情報を与えてくれているのではないでしょうか。

逆に言えば、河床を這い回っている川ミミズは、流れによって自分の位置を認知している、という考えです。少なくても上流と下流という方向性はわかるかと思います。川を横切っているという感覚もわかるでしょう。川ミミズがたとえば陸地に出て行きたければ、体の横から流れの押しを受ける形で進めば良いのです。

流れは、そのほかの情報を与えてもくれます。

たとえば濁り、増水、場合によっては匂いも感じているのかもしれません。でも川ミミズにとって流れが教えてくれる一番大切なことは「方向性」なのではないかと、そんなことを思いました。ひょっとすると、流れの押しの強弱で、川の流心ぐらいは把握しているかもしれません。もっと言えば、流れを細かく体で感じることで、行動範囲のマッピングすらされている可能性まで妄想します。

興味深いのは、この「流れ」の認知と、それを利用した行動は、ミミズによって異なるのかどうか・・という点です。私はもちろん、異なると思っています。「川ミミズ」とは、ミミズの中でも、それに長けたやつらなのではないかと思っているからです。おそらく、土壌中に暮らすミミズと川ミミズが置かれている状況として、決定的に違うのは、食べ物の量ではないかと思います。落ち葉の腐食の溜まる土壌中は、いわばミミズにとって無限に食べ物のある状態とも言えるのではないでしょうか。対して河床はどうかといえば、もちろん、あるところにはあるけれど、ないところにはない、のではないでしょうか。だからこそ、川ミミズは食べ物を探して河床を探し回り、時にはヒゲナガカワトビケラがネットで集めた食べ物を拝借したりもしているのではないでしょうか。

それでも皆がそうなれるわけではないのでは?・・とも思っています。多くの場合、私が観察している河床を徘徊する川ミミズは大型の健康体です。体を河床に不安定なまま晒すことは、ミミズにとって大きなリスクだと思います。そうであってなお、そのようにできているだけの理由もきっとあるのだろうなと。そんなことを思いました。〈若林〉□

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