川ミミズ観察のハイシーズン、夜な夜な仕事帰りに川底への這い出しを観にいっています。(おそらく)フトスジミミズばかりだったのが、少しずつ20㎝以上あるヒトツモンミミズの割合が増えてきたように思います。今のところ、フトスジ6に対し、ヒトツモン4といったところでしょうか。 こちらヒトツモンミミズ。レトロなコーラ瓶に潜り込んでいました。 冬場から初春にこの川の這い出しのメイン種となる(おそらく)ヘンイセイミミズの幼体を、夏に入って初めて一匹だけ観ることもできました。そして川にはブルーベリーでしょうか。ノブドウのような実が流れてくるように。ちなみに一昨日はフワフワとホタルの舞いも観察することができました。 さて。そんなさなか、気にしながら観察しているのがヒゲナガカワトビケラのフィルターネット、捕獲網です。 このような感じに石と石の間にクモの巣のようなネットを張り、そこに引っかかった落ち葉のかけらや小さな動物の死骸などの有機物を食べるのです。写真のネットの中央、向こう側に幼虫が写り込んでいます。 川ミミズは光を当てると嫌がって石の下に潜り込んでしまうので、なかなかうまく撮影はできませんが、赤色ライトで脅かさないように観察すると、このヒゲナガの捕獲網に溜まった有機物を食べているような様子をしばしば観察することができます。身を晒しながら川底を徘徊する川ミミズにとって、ヒゲナガの捕獲網は大きな意味を持った存在なのではないかと考えています。 ヒゲナガの捕獲網のすぐ近くに潜っている姿も珍しくありません。 捕獲網近辺をもぐもぐしている姿。 捕獲網をもぐもぐした後に・・ 網を突き破って・・ ぐんぐんと・・ 面白いのは、ある程度もぐもぐすると、それ以上は捕獲網に執着することなく、そのまま通り過ぎていくこと。ヒゲナガ幼虫にとってはせっかく作った網を壊されてしまうのですから、たまったもんじゃないと思いますが、大げさに言うなれば、一気に谷を流れ下る土石流のような存在なのかもしれません。 一昨日の夜は、トビケラの幼虫が捕獲網から食べ物を得ている姿を初めてじっくり観察することができました。 これは全長10㎜ちょっとの小型。ヒゲナガカワトビケラなのか、もしくは違う種類なのか。いずれにしても自分が作った網ではなく、さらに大型のヒゲナガ幼虫が作った網でもぐもぐしていました。 面白いのは、お尻にある「尻肢」と呼ばれる鉤爪のついた脚です。これをしっかりと石や網などに引っ掛けて流されないように踏ん張っているように見えます。 ちなみにこの幼虫は違うところにある石の表面にかまくら状の小さな網を張っているようでした。近くには弱った川ミミズの点滴でもあるウズムシもちらほら。 流れの中に暮らす生きものは、容易には流されない工夫が凝らされているものです。ヒゲナガカワトビケラなどの尾肢もそうかと思いますが、体自体を平べったくして水の抵抗を受け流すタイプも多くいます。 ヒラタカゲロウの幼虫でしょうか。 こちらはヒラタドロムシの幼虫? 平べったくて石に張り付いています。 ヒルの仲間のように、石にしっかりと吸着しているものもいます。 彼らは流れの中に暮らしている以上、流されて自由を奪われてしまうことのないように色々な工夫をしているように見えます。 では、川を徘徊する川ミミズはどのように体を保持しているのでしょう。そう考えながら観察をしていると、あることに気づきます。 彼らは体の前1/3と後ろ2/3あたりを使い分けているように見えます。 体の前1/3は探索パート、後ろ2/3は保持パートといったところでしょうか。 探索パートで流れの強弱や向き、そして食べ物のありかを探りながら、保持パートは動かさずにしっかりと河床の上に置いておき、時には石などに巻き付けながら体を保持します。探索パートが強い流れを感じた時には、保持パートで後ずさりをしながら探索パートでよりベターな行き先を探っているようにも見えます。探索パートは図のように中層に浮き上がらせていることもしばしばですが、保持パートはベッタリと川底につけています。これまで浮いてしまうと一気に流されてしまうようなところも徘徊しているのです。 河床に這い出している川ミミズは10㎝以上の大型種が多く、20㎝から25㎝を超えるものも珍しくありません。小型の場合、同所的に存在するドジョウやコイ、アメリカザリガニやアカミミガメ、モクズガニやサワガニなどに襲われやすいこともあるかとは思いますが、それ以前に流されてしまいやすいのかもしれません。流されてしまった結果、観察できないのか、流されてしまわないように河床の砂礫底から出てこないのかは、日中にある程度の範囲を掘り起こしてみることでわかるかと思いますが、おそらくは身を晒す場所に出てきづらいのではないかと想像しています。 ただ、できることならば這い出して移動したい。もしかすると這い出さずとも、ある程度は移動したいのが(特に表層性の)ミミズなのではないか・・。その一つの形を、河床を這い出す川ミミズとして観察することができているのではないかと、そんなことを思っています。〈若林〉□ 【お知らせ】 川辺の自然観察をまとめた一冊、『武蔵野発 川っぷち生きもの観察記』発売中です!(アマゾンの販売ページはこちら) ★RIVER-WALK Vol.1~Vol.3発売中です!★
|
面白い。興味深いです。
詳しくありませんが普段陸上に居るミミズと違う種なのでしょうか?
ご興味を持っていただき、ありがとうございます!
常に水の中で暮らす、いわゆる「水生ミミズ」というもっと小型のミミズもいるのですが、私が主に観察しているのは陸生大型フトミミズの仲間です。
ミミズはとてもたくさんの種類がいるのですが、種を見分けるのがとても難しく、私が見分けられる(と思っている)のはブログに書いたヒトツモンミミズ、フトスジミミズ、キクチミミズ、ヘンイセイミミズぐらいです。あとは釣り餌にもなるツリミミズ科のシマミミズ(キジ)とサクラミミズぐらいでしょうか。これらはすべて基本的には湿った陸地やエコトーンと呼ばれる水辺との境界に多くいます。私が見ているのは、それらが何らかの理由で川の中にいる姿であり、川にいる姿を観察させてくれるミミズたちを通称として「川ミミズ」と呼んでいます。彼らはもしかしたら陸地から川の中に落ちてしまった状態なのかもしれませんし、もしかすると川の中(河床の砂礫中)で一生を過ごして代々命を繋いでいるのかもしれません。実際に河床の礫中でミミズの卵を見たり、小さな幼体を見ることもあります。現代は川は流路が比較的定まっているものですが、かつての川は、もっと溢れては流路を変えて、陸地が水中になり、水中が陸地になりと、動きに富んだものだったでしょうし、河床を動き回る習性も、そんなことを考えるとごく自然なことなのかもしれないな、なんてことを思っています。