編集をお手伝いした『日本の深海魚図鑑』(山と溪谷社)が発売となりました! 編著者である岡本 誠さん、本村浩之さんはじめ、総勢19名の分類学者による決定版です。

帯にはこうあります。

地球最後の秘境・深海。その極限の環境に生きる日本近海の深海魚 全423種を解説 19人の研究者が最新情報を執筆!

そう、深海は地球最後の秘境なのです。

特筆すべき点は多々ありますが、最もお伝えしたいのは、やはり写真が美しく、眺めていて楽しいことです。423「種」とありますが、科でいえば135「科」となり、つまりサメやらエイやらチョウチンアンコウやらハゼやらムツやらメバルやら・・と全然違う魚たちが「深海に暮らす」という、ただ一点の共通項で括られて紹介されているものですから、それは平べったいのやらまん丸いのやらでかいのやら小さいのやらトゲトゲやらブヨブヨやらフワフワやら・・とさまざまな姿形の魚たちを眺めて楽しむことができるのです。

いや共通項はもう一つありました。それは「日本近海に暮らしている」という括りです。こんな飛び出すアゴやらヒモみたいな発光器やらリボンのような体やら・・といったさまざまな姿形の深海魚が目の前の海に暮らしていると考えるだけで不思議な気持ちになりませんか?

そして写真の美しさもさることながら、著者の皆さんがこだわった解説文もぜひ楽しんでもらいたいです。例えば数例を抜粋するとこんな感じ。

地中海からは漂着個体の写真に基づき報告されていたが、これはプラスチック製の玩具であったことが後に判明した。

調査用設置型カメラの前に設置した餌箱に何度も噛みつき、長時間居座る様子がたびたび観察されていることから、執拗な性格であると思われる。

本属名のZuはバビロニア神話に登場する暴風の悪魔「ズウ鳥」に因む。

姿がヒキガエルに似ていることから、カエルの古語「クク」または「クツ」に由来するという説がある。

体にゆずのような黄色い斑紋があることで、この名前にしたが、歌手のゆずが好きであることももう一つの理由であった。

などなど。そんななか、無類のサケ好きである私の心を鷲づかみにしたのはサケビクニン・・ではなくサケガシラの解説でした(ぜひ読まれてください。サケビクニンも大好きです…)。

わたくし深海魚には全く詳しくなく、今回は一足先に読ませてもらった読者気分でとても楽しく編集作業をさせていただきました、全体をパラパラ〜と見ていると、なんとなく見慣れた形の魚と、いやこれは・・という魚に分かれるんですね。今回、深海は「200m以深」と定義していますが、見慣れた魚はやはり深海といえども比較的そこまで深くない海域に棲んでいるものが多く、対していやこれは・・と思うものは、やはりかなりの深場に棲んでいる傾向があります。深海という私たちの常識の外である空間で生きていくには、やはり私たちの常識から外れた姿形、形態や生態を持っているものなのだなと実感しました。

体の下方についた発光器で自分の影を消すだとか(カウンターシェーディングというそうです)、胸ビレの一部がふさふさになっていて、それが海底から餌を探すためのセンサーになっているとか、大きな目とか、ブヨブヨの体とか、色も含めて、「なぜこうなっているのだろう?」と想像(妄想)すると、とても楽しめるのではないかと思います。

魚好きな人はもちろんのこと、未知なる最後のフロンティアである深海にロマンを求める人たちにもきっと楽しんでもらえる図鑑です。

最後に社内編集担当の「山と溪谷社生きもの部」の部長ことブチョーwが閃いてこだわり抜いた表紙の仕掛けをご紹介しましょう。

わかりますでしょうか? 盛り上がってテカッとしている「Deep-Sea Fishes of Japan」。このピカピカした装飾は、なんとハダカイワシの発光器を模しているのです! 小さなこだわりかと思われることでしょう。印刷費用も上乗せされていることでしょう。でも実際に本屋さんで、またネットショップで手にしてご覧になってください。一度、そう知ると、もうハダカイワシにしか見えませんから・・。ちなみにハダカイワシは日周鉛直移動によって表層と深海を行き来する魚。彼らは多くのフィッシュイーターのご馳走であり、深海の栄養ポンプとも言われているそうです。海の養分を森へ運ぶサケは「Salmon make a forest」なんて言われますが、ハダカイワシは深海の生態系を形作る一役を担っているのかもしれませんね。ちなみにハダカイワシ科は33種も掲載されており、これも図鑑としてはかなり意欲的な試みなのです。

ぜひ、ご購入いただけるとうれしいです。眺めて読んで楽しい深海魚図鑑はクリスマスプレゼントにも最適ですよ!〈若林〉□

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