朝方は晴れ間もありましたが、雲がもくもく湧いてきました。なにやらまたしても南の海では熱帯低気圧の卵が‥。

私はアポロ13船内のようになっているカタツムリハウス(事務所)で作業の一日。

パソコンの熱を冷ますために即席のダクトを設けて冷房を「強」に‥とても寒いです。

今日は勢い、月面に着地‥。

嘘です。水の引いた近所の川を少し歩いてきたのです。

夜にはタヌキが徘徊している模様。

猫の足跡もちらほら‥。

これは推定アオサギ。

こ、これは月面車!?

「潟」でもしばしばみられる痕跡。私的な推測はカメなのですが果たして‥。爪痕がありますね。

普段はタヌキに加えてイタチの足跡も見えるのですが、今日は3カ所回ってイタチはなし。ちょっとだけ心配しています。

月面への第一歩‥ではなく、これはおそらくアライグマ。

近くにはこんな掘り跡も。カメかザリガニでも掘ったのでしょうか?

土手のヤブが薙がれ、歩きやすい。

カルガモの群れ。マガモも今期初確認できました。

こちらは同水系の別支流、朝の風景。この川も溢れんばかりの増水でしたが、今はすでに平水にまで落ち着き、アユが瀬に群れています。それを狙う釣り人の姿も。

ここらへんでは産卵はまだ先ですから、今回の台風の影響はどうでしょう、そこまではなかったのかもしれません。

かえって泥が流されて産卵に好適な砂礫が増えたようにも見えました。

これまた別の支流。2㎝ほどの幼魚が浅瀬に群れていました。この増水をどうやってしのいだのか。

アメンボ。こいつらは飛ぶことができるから、陸地に逃げこんでいたのでしょうか?

ほか撮影はできませんでしたが、コサギ、チュウサギ、ダイサギ、カワウ、ゴイサギ、ドバト、ヒドリガモ、カルガモ、マガモ、ムクドリ、スズメ、ハシボソガラス、ミドリガメ、コイ、スモールマウスバス、ニゴイ、ボラ、ネコあたりを確認。

なんとなく、いつもの構成メンバーが普通に暮らしている感じ。

常日頃、この川で生きているものたちにとって、今回の台風19号はどのようなものだったのだろう‥。

ところで。

渓流に棲むイワナは大水の出る前に石を呑みこむと言われています。

なんでも石をたくさん呑みこんで身体を重くして、増水時の激流にも流されないようにするのだとか‥。

そんなことを先日ツイッターに書きましたら「流されてくる小石を餌と間違えて食べてるんじゃない?」というコメントをいただきました。

一理ある。実際、木くずみたいなのはよく食べているようだし。

一方で、渓流域を区切った管理釣り場を営んでいるご主人いわく、「イワナは大水が出る前に石を呑みこんでいる。石を呑みこんだイワナを観て、大水が来ることを予測できる」とのこと。たしかそんな話をお聞きした記憶があります。

だとすると、やはり激流を見越しての備えなのかとも‥。

科学的な検証はおそらくまだされていないかと思いますので、ぜひどなたかに調べていただきたいところです。

イワナといえば、たまに体中に傷がついたやつが釣れてくることがあります。

擦り傷のような‥。

これなんか、増水時に岩の間に潜りこんでできた傷なんじゃないかな‥なんて想像をしたりもします。イワナの名の由来のひとつに「岩穴魚(いわあなうお)の転訛」という説があるくらいですから。増水時は岩穴にグングン潜りこんでいくのではないでしょうか?

ちなみに北海道大学の研究には「釣り人は正しかった:洪水時における支流避難仮説の実験的検証(小泉逸郎さんほか 2013)」というものがあります。

タイトルそのまま、洪水時にイワナ(この研究ではオショロコマ)は支流に逃げ込むことを実証した研究です。

小泉さんご自身による研究紹介もとても興味深いので、お時間がある方はご覧になってみてください。

そのご紹介の中に、台湾のサラマオマス(ヤマメの仲間)に発信器を付けた研究について書かれているのですが、大型台風による増水でも一匹も流されずに石の間などに隠れて留まっていたそうです。小泉さんは台風の多い地域に適応している可能性も言及しています。

 

「過去最大クラス」と謳われた今回の台風19号。

「地球史上最大」みたいな大げさな表現もありましたが、それはさておき、過去最大の「過去」っていつ頃からのことなのでしょう。ネットでちょいちょいと調べてみると、1950年ごろからのことだそう。だとすると70年ぐらいか‥。

イワナが日本の川に棲んでいたのはいつぐらいからなのだろう。少なく見積もって200万年? たとえば最終氷期以降の温暖期あたりに本州のイワナがランドロック(陸封)へと向かう・・と仮定すると、ざっと1万年前ぐらい?

この1万年の間、渓流域のイワナたちは、今回の19号クラスの台風に何回ぐらい遭遇したのだろう。

もちろん死んでしまった者も生き残った者もいて、たとえばすべて流されてしまったとしても、また別の川から海を伝って上ってきたり、河川氾濫などによってつながった際に移動してきたりして‥。

今回の台風が産卵期のヤマメに及ぼしたような甚大な影響もあったことでしょう。でも確かなことは、今もなお、川にイワナがいるという事実。

そこで思うのは、台風や洪水に限らず、その地に訪れた幾度もの危機を乗り越えて、残ってきた子孫という、その土地とは切り離せない歴史性。急増水の多い川では、急増水に強いイワナが残り、渇水の多い川では、渇水に強いイワナが残る、みたいな。

いわゆる「ネイティブ」や「天然モノ」と呼ばれる、その地(水系)に生きる原種の尊さは、長い長い命のバトンをつないで、その地(水系)で迫りくる危機を幾度も乗り越えて今に至るという歴史性にこそあるのでしょう。

では、今回だってイワナは大丈夫だよ。だって1万年前から何度も同様の危機を乗り越えてきたんだもの。

‥と思うのは早計でして、それこそ、この戦後70年ちょっとの、とても僅かな間に人間は大きく彼らの棲む環境を変えてしまっているわけです。たとえば、ある沢から一気に流されたとしても、また下流から上ってくればよかったのが、ダムや堰堤ができて上れないとか‥。それこそ1万年培ってきた歴史性で対応しきれないほどの変化があるわけで、そう考えると、やはり「過去最大クラス」の台風は、彼らにとってもやはり「最大クラスの脅威」となってしまっているのではないでしょうか?

なんてことを考えました。

と、同時に、長々と書いたそんなストーリーが現実性を欠いた、おとぎ話だろうことも予感しています。

歴史がたとえ数年の放流魚だろうとも、対応できることもある。改変された土地だからこそ生きものにとって有利になる例もきっとある‥。

近所の川に戻ります。

セイタカアワダチソウが色づきはじめました。

人の手で急激に改変された地に、人により放たれ、新たにこの地とともに、1万年の歴史を作り始めようと生きる者。

何年前の欠片だろう?

アポロへと帰ります。〈若林〉□

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