埼玉南部は今日もお天気ぐずつき気味。2個の台風の行方が心配です。

さて。本日は、山と渓谷社から発売されたばかりの、村田久さんの新刊『イーハトーブ釣り倶楽部』(ヤマケイ文庫)のご紹介をさせていただきます。

「BE-PAL BOOKS」として2001年に小学館より出版されたエッセイ集の文庫化となりますが、今回、元々のコンテンツに加え、あらたに2編が加わり、幸山義昭さんの表紙イラストで生まれ変わりました。

御縁あって、弊社が編集を担当させていただきました。

宮沢賢治も愛したイーハートーブ、岩手県を中心とした里山深山の渓流が舞台。フライフィッシングをたしなむ著者が、そこで出会った人々や魚とのふれあいから、物語の世界へと入り込んでいく、珠玉のエッセイ集です。

イワナの大ものを剥製にする夢を持ち、ついに四十四センチを「拾った」友人。南部毛バリを風に乗せ、空中で誘うヒカリ釣りの名手。渓にマムシを放つ老人。とっておきの穴場を教えてくれた川の子供たち。釣り上げた淵の主にハサミで疵を入れる友人。輪カンジキが縁となった、最後の須川マタギ。川沿いのバス停で写真を撮らせてもらったおばあさんと小学生の女の子たち。遠野の里川に桃源郷を見た盟友。最期にヤマメを食いたいと言った弟……。

ほのぼのとしながらも少し不思議でざらりとした読感もある、現実と非現実との狭間を行き来するような、渓流釣りのもつ魅力がたっぷりと詰め込まれています。

ところどころ、表紙画を担当していただいた幸山義昭さんの銅版画による挿画がまたよい雰囲気を醸し出しています。

村田さんとの御縁は、この一作前の同じくヤマケイ文庫『新編 底なし淵』で、表紙の写真を担当させていただいたことでした。

それまで、もちろん村田 久さんの作品については存じておりましたが、なかなかじっくりと読む機会がありませんでした。ですが、この『新編 底なし淵』から遡る形で様々な著作を読み漁り、すっかり村田ワールドにハマってしまいました。そしてなんとか弊社で出版している渓流釣りの本『RIVER-WALK』にご寄稿をいただけないかとお願いをしました。

ありがたいことに、ご快諾をいただき『RIVER-WALK Vol.2』で「追憶の遠野行」というご自身の節目となるエッセイを掲載させていただいたのです。

節目……と言いますのは、村田さんが30年来通い詰めていた遠野の早池峰神社そば、大出集落にある民宿「わらべ」が、ちょうど『RIVER-WALK』の撮影でご宿泊させていただいた2017年で歴史に幕を下ろしたのです。「追憶の遠野行」では、そのことが書かれ、往年の遠野での輝かしき釣りが振り返られる、ひとつの釣り人生の振り返りとも思える内容でした。盟友・芦澤一洋さんとの釣りシーンが遠野の里川の夏の夕暮れの一風景として、実に美しく文章で描かれています。

今回の文庫版『イーハトーブ釣り倶楽部』には「追憶の遠野行」が収録されています。個人的な話で強縮ですが、私にとっては宝物のような一冊となりました。

「BE-PAL BOOKS」の一冊に収録されたエッセイをまとめた第一部は、いまから20年ほど前の話。第二部として収録された「追憶の遠野行」と書き下ろし作品の「蝉しぐれ」は、平成の終わりから令和にかけて、現在の村田さんの物語。流れた時間が著者におよぼした影響を想うのも、この一冊の楽しみのひとつと言えるでしょう。

そして原稿用紙8枚という、やや尺のあるあとがきでは、現代の気候変動を憂うとともに、「追憶の遠野行」で描かれた芦澤一洋さんとの釣りシーンが、再び実名をもって描かれています。

その重複に、著者の切実なる想いが込められているようで、私はとても好きです。

『イーハトーブ釣り倶楽部』(村田 久 ヤマケイ文庫)

釣りがテーマでありながら専門的な釣り用語は皆無にも等しい、誰もが読めるエッセイです。

ぜひ、読んでいただけるとうれしいです!〈若林〉□

 

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