なかなか時間が取れずに行きそびれてしまった展示も多かったこの秋。

今週は2つの展示を観に行くことができました。

まずは戸越公園駅近くの「hasu no hana」で開催されていた溝上幾久子さんの銅版画展『おおかみたちのえものがたり』。

作家であり詩人の多和田葉子さんがつくった物語を元に作られた作品たち。

文章と銅版画が交互に並ぶ、とても引き込む展示でした。

溝上さんは、渓流釣りの本『RIVER-WALK』のFirst IssueとVol.2で表紙画を担当してくださった画家さんです。

おなじみの釣りクマ。これは紙版画の「版」です。

今回の銅版画はとても描写が細やかなのも特徴です。

今回、私が特に惹かれたのはこの作品。

オオカミ県の山上湖…でしょうか? うしろにはアヒルこきこきが‥。

多和田さんの物語は、とても現実的な都会と田舎の話‥のようにも感じました。東京に生まれ育ち、地方の自然にあこがれる私としては、ちらちらと見えるけど、心のどこに置いておこうか‥とぼやかしてしまうようなリアル。

溝上さんの銅版画は、その(私にとっては)リアルな物語を、視覚的に沈殿させます。

それが自分にとっては心地よいことなのか悪いことなのか?

よくわからないまま、ただ作品の力をひしひしと感じ入った次第です。

ところで、なぜかはわからないのですが、溝上さんの描かれる絵で、私は特に鳥に惹かれてしまいます。

主題はオオカミなのに、鳥が気になってしまう‥。

ドローイングや

こんな鳥も・・。

この絵にもかなりグッときました。

今回の展示は終わってしまいましたが、オオカミの物語はどこかできっとまた触れることができるはずです。

溝上さんの作品を観たい方は、毎年恒例、東京の国立にある「WATERMARK & CRAFTS」で本日より12月21日まで開催される「ノエルの贈り物」展をぜひご覧になってください。

 

そしてもうひとつ、本日は新宿御苑そばの「PLACE M」で12月1日(日)まで開催している、なかのまさきさんの「サミーランド 極北のトナカイ狩り」を観に行ってきました。

テーマはフィンランドなど、スカンジナビア北極圏に住んでいる先住民のサーミによるトナカイ狩り。

もともと遊牧民だったサーミの人たちが、ツンドラの丘陵などで自然放牧しているトナカイを一年に一度、その年に定めた場所に集め、選別・屠殺する大規模な行事「ポロエロトゥス」。

モノクロとカラーで撮られた写真は、熱気と冷気と人の営みがじわりと伝わってくるものでした。

とても気になった一枚。

「放牧」とはいえ、彼らトナカイにとっては、ほぼ自然に生きているような感覚なのかもしれません‥と中野さん。そこに定期的に現れて食料やミルクを与えてくれたり、逆に柵の中に追い込まれて仲間の命を奪ってしまう人という存在を、トナカイはどのような思いで見つめているのだろう? ‥と、そんなことをしばし考えました。

こちらはサーミでなかのさんがとてもお世話になっている漁師さんとのこと。

なかのさんのもうひとつの大きなテーマは、サーミの人たちが湖や海で営むサケ漁です。

いつか、まとまった形で鑑賞できたら‥と願っています。

 

ふたつの展示、とてもよかったです。

物語を溜めることができました。〈若林〉□

 

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