今日は晴れ。

とても暑い一日です。

ニゴイ観察も一段落‥と思いつつ、ついついほんの少し‥の気持ちで覗いてしまうと、呼び込むようにナイスな観察のタイミングに出くわすというニゴイスパイラル。いえ‥そろそろ抜け出そうと思います‥。

ともあれ、昨日観察した2時間の間に3回メスを産卵に導いた通称「モテオス」は、本日もおりました(モテオスについては過去ブログ【モテオス】参照)。

ですが昨日のモテモテ具合からは少し事情が変っておりまして、やや元気なくお疲れな様子。ナワバリ内のホットスポットは、下図の位置Bよりも、さらに2mほど上流側にシフトしておりました。流速で言えば、Aが最も早く、次にB、そして本日陣取ったホットスポットはさらに流速の遅い所でした。

ですがさすがはモテオス。観察したばかりのタイミングではメスを引き連れて、追い越し求愛行動と、時にブルブル求愛行動も行っておりました。

そして以前観察した、ひそひそパラレルドリフトも行っておりました。

「ひそパラ」です。

何度も同じ図を登場させてしまいますが、とても優美な動き。

もしかすると、ある程度、産卵回数をこなしたペアがたどり着く行動なのかもしれませんね。

 

さて。

冒頭で述べたとおり、本日はひとつトピックス的な観察をすることができました。非常に流れが早く、観察しづらい場所だったのですが、オスメスのペアが産卵・放精を続けざまに、なんと(!)4回もしまして、その一連を観察することができたのです。産卵から産卵。Spawn to spawn.

そのタイムテーブルは次の通りです(01:49は、撮影開始から1分49秒を表しています)。

01:49 【産卵・放精!】 オスメスは、ほぼ同サイズ。ともに35~40㎝ほど。

産卵後、オスは2回ほど追い越し求愛行動を行ってから50㎝ほど離れた所に定位。メスは産卵を行った場所に定位。オスメスともにほぼ動かず、特にメスはほとんど動かずに、イワナの産卵後のダンスほどではないが、その場でくねくねと体をしなやかに揺らす。卵を産み落とした場所を尾ビレと尻ビレで仰いでいるようにも見える。

05:05 オスが産卵・放精後、初めてメスにブルブル追い越し求愛行動(ブルブル+追い越し)を行う。

07:44 メスが初めて産卵した場所から少し移動。オスは産卵後、ここまでで11回のブルブル追い越し求愛行動を行った。

引き続き、オスによるブルブル求愛行動(この間に18回)。

10:13 メスが上流側に泳ぎ去り、それを追ってオスも泳いで行ってしまう。

上流で何が行われていたかは不明。

12:23 先にオスが戻り、産卵地点とオスが定位していた場所を行ったり来たり。

13:15 メスが戻り、オスによるブルブル求愛行動再開

オスによるブルブル求愛行動続く(この間に12回)。その間に3回ほど、卵を産む前に見せるようなスパスパ行動を行う。

14:13 イナッコが大量(13匹ほど)に遡上、ナワバリを通過。メスはそれをいやがったのか、少し上流に移動。メスの後方1mほどの所にオス、その後ろに大量のイナッコ。オスは追い払うような攻撃行動はまるで見せない。

15:06 メスの後方にいるオスは完全にイナッコの群れに包まれる(とても寛容)。

15:42 メスが後ろから迫るイナッコをいやがったのか、斜め上流に緩やかに移動。それにつられてイナッコの群れがメスについて上流へ。

15:54 イナッコ去る。ナワバリにはオスのみ。

17:20 メス戻る。オスはブルブル求愛行動を再開。

するとまたすぐにイナッコの群れがやってくる(この間、オスのブルブル求愛行動は7回)。イナッコの群れにオスメスとも攻撃は仕かけないが、気にはしているようで、オスはブルブル求愛行動をやめてしまう。

18:09 下流についたイナッコの群れに、オスが体をゆるやかに寄せて左右に押しのける。メスは少し上流に移動。オスはさらに左右に体を寄せてイナッコを押しのける行動。イナッコが上流のメスに近づくと、メスとイナッコとの間に体をすべり込ませてイナッコを押しのける。

18:57 一回だけオスは追い越し求愛行動を行うと、イナッコをナワバリに残したまま、メスが上流へ去ってしまう。それを追ってオスも去ってしまう。後を追うようにイナッコの群れも去る。

19:08 オスが戻ってくる。

19:54 メスが戻ってくる。オスのブルブル求愛行動再開。6回やったところでメスがスパスパ。さらに2回ブルブル求愛行動を行ったところで、再びメスがスパスパ。

20:29 【二度目の産卵・放精!】。終わった後に、一回目と同様、2回だけ追い越し求愛行動を行うと、メスはその場に、オスはまたしても50㎝ほど離れた斜め後方のポジションに移動。

20:54 産卵・放精後の最初の追い越し求愛行動。さらに2回、ブルブル求愛行動を行ったところでメスがスパスパ。

オスはこの間、29回のブルブル求愛行動をほぼ連続的に行う。メスはこの間、4回ほどスパスパ。メスがスパスパをすると、オスは後方に下がり、メスの尻ビレあたりに頭を近づけて、産卵を待っているように見える。

23:53 【三度目の産卵・放精!】。またしても終わった後に、2回だけブルブル追い越し求愛行動。そしてまた産卵後の位置をキープ。10秒後ぐらいにオスはメスの尻ビレあたりに頭を添わせる。

24:27 産卵・放精後の最初のブルブル追い越し求愛行動。

この間、9回のブルブル追い越し求愛行動。

25:23 【四度目の産卵・放精!】。終わった後は1回だけブルブル求愛行動をしてオスが産卵後の位置に移ると同時に下流側から黒いオスが侵入。ペアのオスメスとほぼ同サイズ。そのままメスの尻ビレあたりに頭を寄せて、上流へと押していく。そして侵入オスが上流側に出てブルブル求愛行動。

25:39 後方でその様子を見ていたペアのオスが、侵入オスに突進。侵入オスを追い払い、メスと侵入オスとの間に入り、侵入オスを体で下流側へと押しやっていく。そしてメスは上流側に去ってしまった。

実に23分34秒の間に同じオスメスのペアが4回もの産卵・放精を行ったのです。

ちなみに初回(実際に初回かどうかは不明ですが)からの時間経過は次の通り。

一回目〈18分40秒〉二回目〈3分24秒〉三回目〈1分30秒〉四回目

だんだんと短くなっております。

そして5回目を目論んで、カメラをトプンと沈めてみました。

オスメスが上流に去っている間に仕かけたので、そこまでおどかしてしまうことはなかったとは思うのですが、結果から言いますと、その後30分は産卵しませんでした。考えうる原因は、四回目の産卵・放精時に現れた黒いオスの存在です。実はオスメスともに産卵場まで戻ってはきたのですが、黒いオスが接近するとすぐペアのオスは突進していき、それを数回繰り返すうちに、メスが上流に去ってしまったのです。

産卵の瞬間、手前が上流側です。オスがメスに寄りかかるようにしてともに震えて産卵・放精しているようです。体を激しく震わせるので、砂煙が立っているのがわかります。メスは口を開けますが、オスは閉じたままのようです。

メスは産卵時間の最後に大きく口を開けます。

産卵後、2分ほど経った状態。右がメス、左がオスです。

ブルブル追い越し求愛行動中です。下がオス、上がメスです。

なにか気づくことはありませんでしょうか?

私はちょっと興奮しました。

それはオスの色です。

このペアに限って言えば、オスは求愛行動を行えば行うほど、見事に体が明るいベージュ色に変化していきました。

通常、オスは黒。メスはそれよりも少し明るいオリーブ系です。

ところがこのペアの場合、オスは求愛行動を行うと、みるみる色が明るくなり、まるでサクラマスの産卵時にスニーカーとなるヤマメのような明るいオリーブ色になったのです。

シロザケのオスは、オス同士で争ったり、メスに求愛行動をする際、まるで炎が燃え盛るような横縞が現れます(魚の場合、口からぶら下げてみたときに縦・横とします)。オス同士で争っていると、二匹はともに炎を燃やして闘うのですが、勝負がついて一方がスニーカーとなると、とたんにそいつは色をメスのような縦縞模様に変えてしまいます。メスに擬態して、ペアオスからの攻撃を避けつつ、産卵・放精の瞬間に割り込む戦略を取ると言われています。体色は30秒もあればがらりと変わります。

今回、ニゴイでも産卵行動中のオスの体色変化をはっきり見ることができました。途中、メスが上流側に去ってしまい、単独になると、すぐに体色は黒っぽくなり、メスが戻り求愛行動を再開すると、鮮やかなベージュに変わるのです。

求愛行動をしている時のオスです。

求愛行動中のオスよりは暗く、求愛行動を行っていない時のオスよりは明るい。

ペアオス(左)が黒い侵入オス(右)を押しのけているところ。

求愛行動中のペアオスの色は明るい。右側にいる黒いのは侵入オス。体を使って下流側へと押しやっていくところです。

もちろん、個体差もあるのだと思います。

昨日観察したモテオスは常に明るい色でした(常にハイテンションだった‥ということか?)。

黒いまま、求愛行動をしていたオスもいたと思います。

今回は、あまりにも見事な変わり身だったので、驚きました。

 

【本日のまとめ】

・同じ組み合わせのペアが23分34秒で4回の産卵・放精を行った(侵入オスのじゃま入らず。流れの強い瀬で観察しづらい所)。

・産卵の瞬間の直後はオスが1~2回の追い越し求愛行動を行ってから、しばらく休息。メスは産卵した場所に留まった(すぐいなくなってしまうメスもいます。オスに追い払われたように見えたメスもいました)。

・産卵行動中のペアオスは体色を変化させる。メスよりも黒っぽい体が求愛行動を行うと、みるみる間に明るく変わりベージュ色に変化した。30秒もあれば結構変わってしまう。

・メスのスパスパが産卵に至る合図のように見える。メスがスパスパすると、オスは追い越し求愛行動をやめ、メスの尻ビレに頭を寄せてタイミングを計っているように見える。

・イナッコにはオスメスともに寛容。攻撃行動は行わない。ただ、オスは左右に押しのけ行動は行った。イナッコの群れに囲まれるとオスは求愛行動をやめ、メスはしばしば上流側に位置を変えた。

・産卵・放精の瞬間、オスはメスの少し後方で体を寄り添うように傾けて密着させる。メスは口を開けるがオスは開けない。

あらためて、サケマスに似ている所、非なる所があって、とても興味深いです。そして最大の違いはメスが産卵床を掘るか否か、なわけですが・・。

ニゴイの産卵床と思わしき痕。

サケマスのメスが産卵床を掘る代わりに、ニゴイはどのような床作りをしているのか‥。オスが張るナワバリの中には、明らかに意識の高いホットスポットがありますが、それはどのような条件の所なのか‥。結果として砂礫底のコケが洗われた状態になり、卵の生育にも適した環境になっているようにも思えるが、これは卵のためにニゴイが行っている結果なのか、もしくは他者(卵食いのコイなど?)・もしくは偶然によるものなのか‥。

ニゴイの謎は深まるばかり‥。〈若林〉□

 

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