本日はシトシトと梅雨のような雨。時折強く、時折雨が止んではむしむしと。ピンポイントに一気に降る集中豪雨でなければ、川の生き物たちにとっては恵みの雨となることかと思います。川を仕事場とする私の予定は続けざまに変更を余儀なくされております…。 さて。 このところ、川ミミズをきっかけに土壌(土です)に興味を持ち始め、関連図書を少しずつ読んだりしているのですが、なかでも金子信博さんの『土壌生態学入門 土壌動物の多様性と機能』は、ミミズに多くのページが割かれており、基本的な知識を少しずついただいております。 専門書ですが「入門」とあるだけあって、読みやすいです。 そのなかで、私が特に注目をしたのは、ミミズには生息深度や食性、生活史の長さによっていくつかの「生態グループ」に分けることができるという記述です。 ざっくり分けると日本のミミズは主に以下の二つになるそうです。 ・主に落葉を食べる「表層性種」 ・土ごと有機物を食べる「地中性種」 ヨーロッパなどではこのほかに、地中の坑道(ミミズが掘った穴ですね)に地表から落葉などを引き込んで食べる「表層採食地中性種」が多く見られるそうですが、日本の場合は稀だそう。 ミミズって土の中に住んでいるんでしょ?ぐらいが一般的な感覚かと思うのですが、どうやらミミズによって住んでいる場所と食べているものが大きく分かれているようなのです。 では、私が川で観察している川ミミズは一体どちらなのか? これが最近、常に頭の中を占めているクエスチョンです。 たとえばこちら・・ これは護岸沿いに小さく出来ている陸地の上に這い出していたヒトツモンミミズです。陸地には植物が生えているほか、沿道の桜並木から落ちた枯葉がたまりますので、腐った葉がたくさんある環境です。これらの落葉や表面を石を取り除くとその下にはたくさんのヒトツモンミミズが暮らしています。『土壌生態学入門』にも書かれていましたが、ヒトツモンミミズは主に落葉を食べる「表層性種」です。つまりそもそも土の中不覚には潜らないミミズなんですね。 このヒトツモンミミズは、しばしば川の流れの中で川底を這っている姿を観察することができます。 こんな感じ。 こんなところです。主に砂の上に石が乗っているような流れの緩い瀬ですね。当然ながら、こんなところには落葉はありません。流されてしまいますので。ということは、落葉を主食とするヒトツモンミミズにとってこのような川底は食事の場ではないのではないかと思っています。 では彼らは何のためにこのような川底 を這っているのでしょうか。時には泳いでいたりもするのでしょうか・・。 一方で、上の写真のような砂と石ばかりの環境で暮らしていると考えたくなる川ミミズもいます。 こんなやつ。私が「マッチョ虹色川ミミズ」と呼んでいるミミズです。彼らは石と砂との間にいて、日中は多くの場合、砂の中に体を一部埋めています。周囲には落葉などは存在しない環境です。 これは「マッチョ」ではありませんが、白っぽく10㎝ほどあるフトミミズの仲間。 果たして彼らは何を食べているのでしょうか? こんなところです。 表面の石を取り除くとこんな感じの砂です。 そして少し掘った断面はこんな感じ。 考えられるひとつは砂や石の間に溜まった動植物の死骸に由来する有機物。
こんな感じに流れの緩やかなところではうっすらと細かい塵のような有機物が積もっています。砂や石の間にも混じっていることでしょう。 ただ、流れの緩やかなところに比べると、流れがある程度効いた瀬では、このような細かな有機物は少ないのではないかと思います。私が「マッチョ虹色川ミミズ」を主に見つけているのは、ある程度流れのある川の底です(注:泥などが溜まっている流れのない場所にいるかどうか、どのぐらいいるのかについては、まだ調べられていません。なぜならば、そこを掘ると土煙が上がって一面が濁ってしまうため、なかなか探しづらいのです。ネットを用いて採取するなどすればある程度の答えが出るとは思っています。今度やってみます) こちらの黒い虫はヒゲナガカワトビケラの幼虫で、川ミミズたちと同じ川にいますが、ある程度の流れがあるところほど多くいます。 ちなみに成虫の姿はこちら。 彼らの幼虫は流れの中で細かな有機物を得るために、ご覧のようなネットを石の間に張り、そこに引っかかった有機物を食べています。裏を返せば、そうでもしないと食べ物が得られづらいということなのではないでしょうか。 ただ、たとえ食べ物が少なくても「マッチョ虹色川ミミズ」など、流れの底に川ミミズが暮らしていることは確かですから、きっと彼らは落葉以外のものを食べているのでしょう。おそらくは石や砂の隙間に溜まったわずかな土や有機物を・・。そうなると、上に記した「生態グループ」に当てはめると「マッチョ虹色川ミミズ」は落葉を主に食べる表層性種ではなく、土ごと有機物を食べる地中性種になるのかな・・なんてことを考えています。 ただ、「マッチョ」が暮らしている流れのある川底は、土自体が少ない環境ですから、少しでも効率よく有機物を食べるための戦略を獲得しているのではないか?・・なんてことを夢想しています。 そのカギとなるのが「マッチョ虹色川ミミズ」の川底への這い出しなのではないか?・・なんてことも。 これは日中に這い出している「マッチョ虹色」。まだ2例しか日中の這い出しは観察したことがありませんが、ともに石に着いた苔を食んでいるような行動を確認しています。 これは掘った後に逃がした「マッチョ虹色川ミミズ」とヒゲナガカワトビケラのネットが偶然に一緒に写っている写真ですが、もしかするとこんな感じにヒゲナガのネットから川ミミズが食べ物を拝借しているなんてこともあるのではないでしょうか・・。 まとめますと、表層性種であるヒトツモンミミズの川底の徘徊と、おそらく地中性種である「マッチョ虹色川ミミズ」の川底の徘徊とは、意味合いが違うのではないか?ということです。 今のところの徘徊の理由としては・・ ヒトツモンミミズは分散のため 「マッチョ虹色川ミミズ」はより効率的な捕食のため なんて妄想を働かせています。〈若林〉◻︎
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