あいも変わらずの川ミミズ観察についてですが・・。

このところずっと気になっていることがあります。

それはヒトツモンミミズと「しまぐろミミズ(おそらくはキクチミミズ。以下、キクチミミズ?と記します)」の移動についてです。

こちらヒトツモンミミズ。私が識別できる、唯一のミミズです。

フトミミズ化の表層性種。1年で死んでしまう一年生だそうです。

私が観察している川では6〜7月に護岸沿いで多く見ることができます。

今年は6月10日に、初めてヒトツモンミミズの特徴を捉えて識別することができました。

こちらキクチミミズ?。こちらも5月ごろから現れ始め、6〜7月に護岸に這い上る姿をたくさん観察できます。

こちらも表層性種であり一年生種。

今年は交接も観察することができました。

この2種類の表層性種は、6〜7月にかけて、私の観察している川で最もたくさん見ることのできるミミズです。

8月もたくさん見れるかなーと思っていたのですが、いろいろありまして、7月5日から8月19日までの約6週間半、観察することができなかったんです。

約1ヶ月半ぶりの観察は、雨の降る夜でした。雨で護岸が濡れるとこれら2種は這い登る姿を見せてくれていましたから、それに期待して久々に観察に行ってみたのですが・・。

なんとほぼ、姿を見ることはできませんでした(かろうじてキクチミミズ?が一匹だけ)。

あれほどいた彼らは、果たして1ヶ月半の間に、どこに行ってしまったのでしょうか?

本当に不思議です。

思えば、川に現れるのも突然でした。

特にヒトツモンミミズに関しては、今年は、6月初旬から探していましたので、初めて観察した6月10日以前は、ほとんど見ていなかったはずです。それが6月10日から日を追うごとに川の中に増えていきました。

一体、どこからやってくるのだろう? そんな疑問を書いたのがこちらのブログです。

過去ブログ【どこからやってくるのか?】

観察しているのは、このような浅い護岸河川。

主に観察しているのは護岸沿いのAのような場所です。

Bはわずかにある砂礫の中洲。Cはこれもわずかに点在する草の生えた(つまり、土もある)小さな陸地です。

私の仮説はBもしくはCのような陸地から移動してくるのではないか?というものでした。

ただ、もう一つの仮説として「護岸の上から落ちてくる」という可能性もあります。

お盆を過ぎて、姿が見えなくなってしまったヒトツモンミミズとキクチミミズ?は一体どこに行ってしまったのか?

おそらく私は上図のCのような陸地なのではないかと思い、探してみましたが、ほぼ見当たらず(唯一、一匹だけ水位が下がったことで陸地となったところで焦げ茶色に変色したヒトツモンミミズを観察することができました)。

いくらなんでも急に死に絶えてしまったとは考えづらく、だとすると、どこかに一斉に移動してしまったということになります。

上流なのか、下流なのか、それとも所々にある深い淵の底なのか・・。

ヒントを探していたところ、一つの論文に当たりました。2015年に「日本土壌動物学会(The Japanese Society of Soil Zoology)」の短報として出された「初冬期に北海道北部の河川水中で観察された大量の陸棲ミミズ:一斉移動への示唆」(小林真・南谷幸雄・竹内史郎・奥田篤志・金子信博)というものです。

2014年11月28日に砂防用堰堤下流部の淵で大量にヒトツモンミミズ等の陸棲ミミズが観察されたというレポートです(こちらから読むことができます)。考察では、生活史の一環としての一斉移動を示唆する内容も書かれています(一つの仮説として、低温と土壌水分の増加の複合要因が、表層性のフトミミズ科のミミズの一斉移動の引き金になっているのでは・・とありました)。

初冬とか北海道とか、真夏の埼玉南部とはまるで異なる環境とタイミングではありますが、いずれにしても、ヒトツモンミミズは一斉移動をするミミズであるようです。ちなみに関東地方の観察例では、ヒトツモンミミズの大量の出現が月齢に同調することを示しているという研究例もあります(2003年 柴田康平 フトミミズの地表出現と降雨・月齢の関係)。

そして、この北海道の観察例の論文の考察は、とても興味深い文章で締めくくられていました。

(文章引用)近 年の 研 究 に よ り,ハ リガネム シ に よる宿主操作 を介 し て森林か ら河川へ 供給さ れ る 陸棲昆虫類が ,河川中の 魚類 の エ ネル ギ ー源とし て重要な割合を占め て い る とい う興味 深い 事実が 明らか に なっ て い る (Satoet ai .,2011).今後 森林土壌 中の 現存量が大 きい 陸棲 ミ ミズ につ い て も,一斉 移動 を起 こす ミ ミズ の 内的要 因や河 川 に供給され るエ ネル ギ ーと して の 量 を解 明す る こ とで ,森に棲む無脊椎動物の 行動 が,物質循環 を介 した森林 と河川 との つ なが りに果た す役 割が鮮明 と なる だ ろ う.(引用ここまで)

このことはまさに、私が川ミミズを観察し続けている中で、ずっと頭の中にあることでした。

川ミミズもまた、ハリガネムシ同様、川と森をつなぐ存在なのではないか?と。

ハリガネムシは、その名の通り、針金のような細長い形をした線虫の仲間ですが、その生活史はとてもとても興味深いものです。

川の中で産み落とされた卵から孵化した幼生は、カゲロウの幼虫など河川内の有機物を食べる水生昆虫の体内に取り込まれると、その体内でシスト(寄生するための形態)となります。寄生されたカゲロウなどの水生昆虫は、羽化すると体内にシストを蓄えたまま、川辺の陸地へと飛び立っていきます。それらをカマキリやカマドウマ、キリギリスなどが捕食したり、死骸を食べたりすることで、ハリガネムシのシストもまた取り込まれ、最終宿主へと移ります。おそろしいことに、陸棲昆虫であるカマキリやカマドウマは、ハリガネムシに寄生されると、なんと川の中に飛び込むように体内から操作されて入水するのです。ハリガネムシは、カマキリやカマドウマが川の中に入ると肛門などから抜け出し、川の中で繁殖へと移っていく・・という循環です。

近年、神戸大学の佐藤拓哉さんらによる研究で、イワナやアマゴ・ヤマメなどの渓流魚が一年に得る総エネルギーの約6割は、ハリガネムシに操られて川に入水したカマドウマなどで占められていることがわかり、大きなニュースになりました。ハリガネムシは、川と森のエネルギー循環をつなぐ役割を果たしていたのです。

渓流で釣ったイワナのお尻からニュルニュルとハリガネムシが出てくるときがありますが、これはイワナに寄生しているわけではなく、水に落ちた宿主の虫の体内から脱出を試みている最中に、もろともイワナに食べられてしまい、慌ててイワナから脱出を図っている最中なのだそうです。

ともあれ、ミミズの中で、川の中に進出する川ミミズも、もしかすると、森と川のエネルギー循環をつなぐ大きな役割を果たしているのかもしれません(降雨時に川に大量に流入するミミズがウナギの重要な食べ物になっているという研究も近年発表されています)。

前置きが異常に長くなってしまいました・・。

そんなわけで、消えてしまったヒトツモンミミズとキクチミミズ?を探しに、川へ。

アメリカザリガニがいました。6月7月は少し減っていたような気がしましたが、この頃はまた目立つようになってきました。

ドジョウ。この川には太く大きなドジョウがたくさんいます。

水辺の落ち葉だまりには、流されてきた、おそらくクロオオアリの女王でしょうか。

こちらはコオロギ?かバッタの類の脱皮殼?

例の卵(おそらくは大型のナメクジ)もまだありました。

さらに大きな、パチンコ玉ぐらいのぶよっとした卵?も・・。

いくらのような果実も

この種子も目立ちました。

水際にはハサミムシと、こちらのコオロギも結構います。

こんな露出した川底への落ち葉だまりでは・・

10㎝ほどのフトミミズ科のミミズがいました。

これはまた別のミミズ。ですが種類は同じかも・・。亜成体といったところ。特に背中が色黒で、あまりこれまで見てこなかった種類。

構造色が青く鈍く輝いています。

目立ったのは大型のモクズガニ。

4匹は見たかな。

これから海に向かうのでしょうか・・。

ムカデも。

このように坑道を作る地中性種のミミズは結構います。これはヘンイセイミミズ・・かな?

地中性種のミミズは越年性であるらしく、おそらくこのままずっとこんな感じにいるのかもしれません。

この中から時に川底に這い出すやつもいます。

そして、驚いたのがこちらです!

お分かりでしょうか?

なんとなんと、これがハリガネムシではありませんか!!

渓流域ではたまに見ますが、この辺では初めてのことです。

動画はこちらからどうぞ。

ハリガネムシのことを思っていたら、目の前に現れるフシギ・・。

いたのはこんな場所。

操られた宿主は、なんだったのでしょう・・。

近くには、思わせぶりな抜け殻もありました・・。

結局、この日もヒトツモンミミズとキクチミミズ?には出会えず。

もしかすると・・ですよ。

いや、私の中では今、一番の仮説になっているのですが、彼らは8月上旬のあるタイミングで、一斉に護岸を這い上り、「その上の世界」に戻るのではないでしょうか?・・。

これはキクチミミズ?ですが、護岸が濡れていれば、這い上がることはできます。

思えば、ヒトツモンミミズと思わしき大型のミミズが、雨の日のある夜に、いつもより高いところまで何匹も上がっているなーという状況を観察したことがあるのです(きっとブログのどこかに書いたと思うのですが、見つけ出せず・・)。

もしかすると、彼らの一部は6月前後になると護岸の上から転がり落ちるように川の中に入ってくるかもしれません。そして6月7月を川の中で過ごし、何かをきっかけとして、また護岸を這い上って「上の世界」へと、戻ってゆくのです・・。

上の世界ではこのようにカマドウマに食べられてしまうこともあるでしょう・・。

まさか、ハリガネムシに寄生された川ミミズが川と森のエネルギー循環に貢献?しているなんてことはないでしょうが・・。

 

これまで土はほとんど掘ってこなかったのですが・・。

一度「上の世界」も観察してみる必要がありそうです。〈若林〉□

 

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