なかなか川ミミズ観察に向かえない日々。ですが、ハリガネムシに操られるカマドウマのように、頭の片隅には常に川ミミズが・・。 そんなさなか(どんなさなか?)、気になっていた一本の研究報告を読むことができました。 題して「木登りをするミミズについて」(南谷幸雄・辻井隆昭 埼玉県立自然の博物館研究報告)。 川ミミズならぬ、木登りミミズです。 このレポートによりますと、南・東南アジアや南米の熱帯では、樹上に生息するミミズが複数報告されているとのこと。そして日本でも、ミミズの木登り行動はしばしば観察されているものの、詳細な報告はほとんど見当たらないとのことです。 そしてこのレポートでは、2011年の6月19日に、大阪府で同日に観察された2例の木登り行動の詳細を報告しています。 詳しくはレポートを参照していただきたいのですが、一例はアラカシ、もう一例はクスノキ。そして這い上っていたミミズは、キクチミミズです。 そう、キクチミミズといえば・・こちらです。 当ブログでたびたびご紹介してきた「しまぐろミミズ」と呼んでいたミミズ。これがどうやら、キクチミミズらしいのです。そしてこのように、「木登り」ではありませんが、濡れた護岸を這い登る大量の個体を観察しています。 そもそも、この這い上り行動には、どのような意味があるのか? その謎に妄想を膨らませるのが、私の大きなテーマにもなっています。 「木登りミミズ」レポートには、そのヒントとなる、専門家の推察(なぜキクチミミズは木に登っていたのか?)が書かれていました。 熱帯産のミミズについては次の5点が提唱されているそうです。 1)洪水に対する一時的な逃避 2)きわめて湿潤な森林土壌の酸や水没、酸素欠乏からの恒常的な逃避 3)乾燥に対する恒常的な逃避 4)泥流などによる偶然的な乗り上げ 5)グンタイアリなどの外敵からの逃避行動 大阪で観察されたキクチミミズの場合、恒常的な逃避行動とは考えにくく、また周囲で洪水や泥流などが起こった形跡は確認できないことから、1)2)3)4)の可能性は除外しています。残りは5)外敵からの逃避行動・・となりますが、もちろんこの可能性が残されているだけで、さらに他の理由があるのかもしれません。 果たして・・。 木登りや護岸の這い上りの理由は定かではありませんが、私が川で観察をしていて確かなことは、少なくても私の見ている川では、6〜7月の夜、最も多く姿を見るミミズが、このキクチミミズである、ということです。 私の夜の観察は、基本的に土を掘ったり川底を掘ったりはしませんので(することもあります)、「多く姿を見る」というのは、垂直護岸・岸辺・川底に這い出している姿を見る、ということです。 そしてまた、別の川でも日中に川底を掘ると、最も姿を見ることのできるミミズのひとつでもあります。 流れのある川底の石の裏で見ることもありますが、「マッチョ虹色川ミミズ」などと比べると、観察例は多くありません。 こんな浅い瀬で見つけることができます。 その時にいたのはこいつです(これは掘り起こしたあとに撮影したカットです)。 むしろ多いのは、川と陸地のちょうど間の、少し岸寄りといったところです。 中でも多いのは、こんなところ。ヤナギタデだと思うのですが、その黒い(腐りかけた?)根っこ付近で多く見ることができます。ただ、季節は5〜7月が中心です。 これが根っこ。このように黒くなっているので、キクチミミズの黒さと関係があるのかな?なんてことも思っていたほどです。 これは夜の観察。6〜7月の夜には、このように湿ったエコトーンで徘徊している姿を多数観察することができます。左上に写っている植物はミゾソバだと思うのですが、ヤナギタデとミゾソバはほとんど似たようなところに生えています。 ちなみに冬場は観察できません。今年、初めて8月中旬に意識して観察したのですが、すでにほとんど姿を消していました。7月には少なくても50匹は観察できていた場所で、1匹いるかいないかといった感じです。 そしてキクチミミズのもう一つの特徴は、「たくさんいる」ということです。 こんな感じに体を寄せ合っている姿をしばしば見かけます。 これはもしかすると、交接(交尾のようなもの)相手を探しているのか?なんてことも思いましたが、このようにただの護岸に這い出ているところで交接している姿はまだ観察できておりません。 交接は今年、4例観察しました。 いずれも護岸の隙間や溝に依存しているというか、ちょっと無防備ではないようなところでやっていた印象があります。ちなみにLEDの白色灯で照らすと嫌がりますので、光の当て方にはとても気を遣っています。 無防備なところでは観察できていないとはいえ、同じタイミングに大量に這い登ることで、交接相手との接触が増えることは考えられます。ちなみにこの大量の這い上りを観察したのは6月22日。日中から夕方に少し雨が降り、護岸は湿った状態でした。下弦の半月の翌日です。(詳しくは過去ブログ【川ミミズの交接を観察】をご覧ください)。 たくさん、這い上るので、やはり食べられてはいるようです。 衝撃的だったコウガイビルの捕食。 ムカデが食べているシーンも・・(足の間から縞模様が見えます)
日中の観察でも一箇所に群れていることがありました。 こんな感じです。水深5㎝ほどの岸近くの浅い流れ。上の石を少しどかしていくと、このように複数匹が固まってうずくまっていました。 一匹だけ太いのは、「マッチョ虹色川ミミズ」です。この時は川ミミズ観察をしてまもない頃でしたので、とても驚きました。ただ、その後の観察で、いつもこんな感じにいるわけではないこともわかりました。観察日は6月9日です。
今一度、気になる這い上りについて。 上に挙げた、熱帯での木登り行動の理由の候補を見てみます。 1)洪水に対する一時的な逃避 2)きわめて湿潤な森林土壌の酸や水没、酸素欠乏からの恒常的な逃避 3)乾燥に対する恒常的な逃避 4)泥流などによる偶然的な乗り上げ 5)グンタイアリなどの外敵からの逃避行動 これを見ると、逃避行動もしくは偶然の乗り上げになります。 ですが(根拠はまるでないのですが)、私の目には、木登りならぬ壁の這い上り行動は、逃避や偶然というよりも、もっと積極的な行動のように映っています。例えば「もっと新天地へ分散したい」とか「交接相手と出会いたい」とか・・。 ちなみにここの垂直護岸は、乾燥していると這い登ることは、ほぼ不可能です。雨や増水などで湿って初めてミミズが這い上ることができます。ただ、濡れていれば必ず這い上るかといえば、そうでもないようです。 一度、7月だったかと思うのですが、護岸が乾いている日に、川の水を護岸にぶっかけてみたことがありました。そうしたら、すぐさま数匹のキクチミミズが這い上り行動を始めました。私的には大量に上ってくることを期待したのですが、そこまでは至らず。でも濡れることで(上からの水を感じることで?)短時間に這い上り始めるミミズがいることは確かです。 さて。 そんなキクチミミズではありますが、もう一つ大きな特徴があります。 それは体色です。 他のミミズに比べて体色が黒ずんでいるんです。 ヤナギタデの根っこ付近など、黒っぽいところにいるからなのかなーなんてことも思いましたが・・。 今では姿を露わにする際の保護色なのではないか?と妄想しています。 同じように壁を這い登るミミズは結構います。 ですが、ミミズによっては、めちゃくちゃ無防備なんですよね・・。 例えばヒトツモンミミズ。 そして「クリームオヨギデカミミズ」。 彼らもまた、護岸を這い上り、しかもキクチミミズよりも大型種ですが、色はあまり黒っぽくありません。それよりも護岸を群れで?這い上り、木にも登るキクチミミズは、ミミズの中でもより徘徊に特化したミミズなのではないでしょうか。だからこそ獲得した保護色としての暗色なのではないかと・・。 その妄想を確かめるためには、熱帯にいる樹上性のミミズの色を知ることが先決となりますが・・・。 ツイッターで一例だけ見た樹上性のミミズは、黒くはありませんでしたが、枯葉や枯れ草にそっくりな色合いでした。 木登りは確認されずとも、日本にいるミミズで大きな季節移動が知られているシーボルトミミズの色もまた、気になっています。ブルーの暗色。そしてあの虹色の構造色もまた、キクチミミズに似ているのではないかとも・・・。 こちら昔、四国で一度だけ見たシーボルトミミズ・・だと思っていたミミズ。森の中を徘徊中でした。 でかいからシーボルトかと思っていましたが、見返してみると、どうなんだろう・・と気になる色合い。それでもやはり、 暗色系ですよね。 湧き水場にいたこいつも気になっています。 青緑色だった「マッチョ虹色系」。 色合いと、棲んでいる場所と、行動の関係。 キクチミミズ。川ミミズの中でも、かなーり気になるミミズになってきました。〈若林〉□
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はじめまして。
記事をとても興味深く拝読しております。
いま、自分はコオリミミズ(Mesenchytraeus solifugus)を飼育していて、これは誰も見たことがないので、この卵胞(egg sac)を見てみたいとおもっていろいろ実験しています。
これまで若林さまが観察されたミミズで、ミミズ同士の交接を誘発する要因はなんであるとお考えですか?
宜しくお願いいたします。
コメントをありがとうございます。また、ブログを読んでいただき、ありがとうございます!
コオリミミズ、それ自体、知りませんでした。ネットで検索してみましたら北方の氷河などに棲むミミズとのこと。とても興味深い実験ですね。
私はまだ3年ぐらいしかミミズを観察しておらず、しかも観察地はほぼ全て川と湧き水場の周辺に限られていまして、交接自体も今年の夏にキクチミミズで4例観察しただけなのです。ですので、ご質問いただいた「ミミズ同士の交接」を誘発する要因についても、なんとも想像がつきません。お役に立てず申し訳ございません。
その上で・・なのですが、あまりブログに書いていなかったかもしれないキクチミミズの交接時の印象について、書かせていただきます。
ユーチューブにアップしているキクチミミズの交接の動画(https://www.youtube.com/watch?v=gyA8Hc0XGPU)を撮影した時の印象ですが、この時は、ブログにも書いたかもしれませんが、日中に雨が降った後の夜の観察で、垂直護岸が湿っており、それも一つの引き金となっていると思うのですが、キクチミミズが一斉に這い上っていました。数百匹は登っていたかと思います。這い上っているキクチミミズは、何をもってそうしているのかわからないのですが、数匹が寄り集まって壁の上方を向いている状態が多く、互いに体を寄せ合っているので、交接してはいないかと探し他のですが、そのような状態のところでは一つも見当たらず。そもそも同じ方向に頭を向けているので、交接体勢ではないのかもしれません。
観察した交接をしているミミズは、護岸の溝にハマった状態で向き合っていました。
実は見つけた時に、交接していたミミズが、LEDライトを嫌がって一度、体を離してしまいました。そして1匹が反対側に向いて進み始めてしまいました。10センチほど離れたところでその行く手を塞いで見たところミミズは反転して、また交接相手だったミミズの方に向かって行きました。まさか、また交接したりはしないだろうな・・と思いながらも、LEDライトを消して赤色ライトにして光を調節しながら観察していましたところ、お互いが口で相手の体を色々と探るような動作をし始めました。数十秒はその動作が続いたと思うのですが、少しずつ互い違いになった2匹のミミズが前後しながら互いの交接位置を確かめるようにして、ついに交接に至りました。
思いましたことは、
・交接時に関わりませんが、キクチミミズはLEDの白色ライトに反応している
・赤色ライトぐらいならあまり行動に影響を及ぼさない
・交接前に相手をよく口先で確かめる
・一度離れてしまっても、適した相手との出会い(接触)があれば、交接行動を再開する
・溝など互い違いの密接な出会いの場があると良いのではないか?
といったところでしょうか。
この数日後に、また結構な数のキクチミミズが護岸に這い上っている時にも護岸の平面部では同じ方向を向いていることが多く交接も見られなかったのですが、その時に観察した3例の交接はすべて溝にハマった状態でした。それが何を意味するのかは、よくわかりませんし、偶然かもしれませんが、なんとなく、真正面からの出会い・・からの互いに相手を口で確かめ合うコミュニケーション?があるのでは? なんてことを妄想しています。
どれだけ離れたところから相手を認知して接近して交接に至るのか?・・といったところが気になるところですが、なんとなくの印象では、ある程度一斉に這い出した中で、互い違いに接触する相手と、アリが匂いでコミュニケーションをとるように、口で相手を確かめ合って、良さそうだな・・と思ったら交接に至る、みたいな感じなのかな? なんて思っています。
今年はキクチミミズの這い上りのピークだっただろう7月後半から途中で4週間ほどその川での観察をやめてしまっており、8月のお盆過ぎに久々に見にいった時には、ほぼ全てがいなくなってしまっていました。多数の這い上りのタイミング(ピーク)も意外に短いのかな?なんてことを思った次第です。
今年の川での観察で、印象的だったのは、同じように川に出てくる表層種と地中種では、行動などの雰囲気が違うなといったところです。地中種と思われるミミズが川底に這い出す例も今年はたくさん観察できましたが、こちらは一斉に大量に這い出している姿をまだ見たことがありません。なんとなく、キクチミミズの場合、一斉這い出しは、交接相手との出会いのための一斉這い出しとも感じましたが、地中種の方は、また違うのかもしれないな・・なんてことも思っています。
過去に、おそらくヒトツモンミミズだったかと思うのですが、壁に這い上っていて、雨が降っている日で2時間ほど観察している途中、何がきっかけとなったのか、普段はあまり見られない高さにまで5匹ほどが一斉に這い登る姿を観察したことがあります(そもそも護岸が濡れていないと登れないのですが、濡れていてもそこまでの高さに登ったことはあまり見たことがありませんでした)。
這い出しが彼らの交接の出会いに寄与しているとして、這い出しのタイミングはきっと何かしらあって、それが人工的に作り出すことができれば、交接の機会を人工的に増やすこともできるのかもしれませんね。
長々と見当違いなことを書いてしまったかもしれません。
実験が上手くいくこと、願っております。