寒い朝です。この冬は埼玉南部、よく晴れています。 このところ読んでいる、吉村真由美さんの『流されて生きる生き物たちの生存戦略〜驚きの渓流生態系』(築地書館)は、川ミミズ観察で見てきたことが、なるほどーと繋がる、私にとって、とても意味深い一冊でした。飾りなく簡素な文体で、淡々と渓流生態系のアレやコレやが語られていく、その文体もとても読みやすく、私好みです。 気になったことは、例えば・・ 川が撹乱されると、撹乱の場所やタイプ、生き物が近くの避難場所に生息しているかどうかなどによって、生物相が回復するまでにかかる期間が変化する(本書P.100-101) 川ミミズを観察していると、大雨で河床が撹乱されたことが、とてもよくわかります。土壌構造ではありませんが、河床にも構造があって、川ミミズは安定が続いて河床構造が保たれた場所で多く見つかる印象を持っています。一見すれば、ただの砂利底なのですが、撹乱してからの期間によって、構造がだいぶ違うんですよね。 捕食性のヒラタウズムシは、傷ついた生き物から出る化学物質を検知することで、餌生物の居場所を特定し餌を獲得している。(本書P.150) かつて川底を徘徊していた川ミミズに襲いかかったウズムシ(プラナリア)が、まるでピラニアのように、次々と仲間が集まってきたことの理由がわかったような気になりました(観察記録はこちら)。これはいずれ元の論文も読んでみたいと思っています。 (水生昆虫は)餌の獲得の仕方にもとづいて、川に生息する水生昆虫を五つの摂食機能群(シュレッダー、コレクター、グレーザー、フィルターラー、プレデター)に分けることができる。(本書P.155) 詳細は省きますが、川ミミズはシュレッダー(落葉破砕食者)であり、コレクター(上流から流れてきた有機物などを食べる者)であり、もしかするとグレーザー(付着藻類を剥ぎ取って食べる者)であり、さらにヒゲナガカワトビケラのフィルター(捕獲網)を利用するフィルターラー(捕獲網にかかった有機物などを食べる者)でもあるのではないかと思っています(ヒゲナガのフィルターを利用しているかもしれない様子はこちら)。つまり、さまざまな方法で川の中の有機物を餌として取り込めているのではないかと。 ヒゲナガカワトビケラの造った捕獲網(フィルター)。 ヒゲナガの捕獲網から有機物を拝借しているように見える川ミミズ。 まだまだたくさん参考になることがありましたが、私的に最も気になったのは、コカゲロウやトビケラ、ユスリカ類などの「ドリフト」と呼ばれる行動です。言葉の通り、川の流れに流されて移動する行動ですが、捕食者や水質悪化からの忌避だったり、もっと能動的に新たな餌場を求めるために、川に流されて移動していくのだそうですが、川ミミズにも、このドリフト行動はしばし観察することができ(ているような気がしていて)、とても興味深く感じています。 流されていくわけですから、分布が下流へと偏ってしまうのではないか?と思うところですが、種類によっては成虫が産卵する際に上流に飛んで移動することが知られていたり、幼虫が少しずつ上流へと日常的に移動してドリフトした分を取り戻している、なんてこともあるようです。 川ミミズの場合はどうなのか?・・と考えます。まず、成虫になって上流に飛んでいくことはできません。日常的に上流に少しずつ移動していたりもするのでしょうか? 夜の観察では上流にも下流にも移動する姿を見ていますが、どうなのでしょう。ひとつ言えることは、護岸が濡れると川ミミズはあるタイミングで一斉に登っていく習性があるということです。これは流れに向かう一つの姿ではないか?なんてことを思っています。また、陸生大型ミミズが河川に大量に流入する仕組みも、この流れに向かう習性が絡んでいるのではないか?なんてことを思っています。雨が降って森の斜面に流れが生じ、流れに向かって上っていく最中に誤って流されてしまい、川に落ちる・・といった具合です。雨の日にいずれ、観察してみたい光景です。 さて。 今期は冬場から少しずつ川ミミズの観察をしていきたいと思っており、昨晩も仕事帰りに、まだいないことを確かめに近所の川を覗いてきました。昨年は4月1日に「クリームオヨギデカミミズ」を観察していますので、どの辺りから川底の表面に出てくるのかを突き止めようと思っています。 当日は無風。やや暖かさも感じる、釣りでいえば、バチ抜けが起こりそうな雰囲気。満月の二日前。 川の流れが効いたあたりのアオミドロ付近に・・いました。 長さは7〜8㎝ほど。環帯があるので成体です。「マッチョ虹色川ミミズ」に似ているけど、このタイプは微妙に体型の違うのがたくさんいる気もしています。そのやや細長いタイプ。 ちなみにこちらは数日前の日中に、川底を掘って見つけた川ミミズ。これも「マッチョ」っぽく見えましたが、太さが違うんですよね。 なんと別の場所にもう一匹いました。これは6㎝ほど。太さと色と長さから、先ほどと同じ種類だと思います。成体。やはり流れの効いたアオミドロ周辺。 このところの夜の観察では、屍骸が1〜2匹見られていたぐらいでしたが、昨晩は元気の良い健康そうに見えるものを2匹観察することができました。彼らは何をしているのでしょうか。 同じように見えるアオミドロでも、ミミズがいるところといないところがあるような気がしています。 こんな感じです。 ライトを当てると嫌がって逃げようとします。 そしてコロコロと流れに乗ってドリフトしました。 流された・・というよりもう少し慣れた様子で。 ちなみに赤ライトでなるべく影響を与えない観察でも、しばしばドリフト行動は見せてくれます。 何ミミズなんだろう・・。 私の妄想では、捕食行動もしくはドリフト中という見立て。 いずれにしても、真冬でも河床を徘徊しているだろうことが分かりました。いる場所の検討も少しだけ絞れた気がします。今度は脅かさずに捕食またはドリフターとしての行動をじっくり観察してみたいと思います。〈若林〉□
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