埼玉南部、今日も厳しい暑さになりそう・・。 なかなか外に出られない日々が続いております。 そこでテーマを決めて、過去の観察を振り返ってみようかと思いました。 題して「川ミミズを食べる生きもの」です。 とある生きものの暮らしを知る上で、大きなヒントになるのは他の生きものとの関係性です。 なかでも食べる・食べられるの関係は、生き死にに直結する、とても大切な関係性です。 そこで、私が謎と魅惑の迷宮を彷徨っている川ミミズをもっと深く理解するために、川ミミズを食べる生きものについて、シリーズで紹介していきたいと思います。以前に「川ミミズの隣人」シリーズとして、同じ場所に棲む生きものを紹介したことがありますが、テーマを食べる・食べらえるに絞って、改めて私の妄想も含めて紹介していきたいと思います。 第1回は、先日、その捕食シーンを目撃して衝撃を受けたアメリカツノウズムシです。 こちらです。右上の白いヒトデのようなものは死んだドジョウの口元です。そこに向かっている最中でしょうか。一匹のナメクジのようなクリーム色の生きものが、アメリカツノウズムシです。 大きさは2㎝弱、といったところでしょうか。大阪府立環境農林水産総合研究所のウェブ図鑑によりますと、「北米原産の外来種で、体長1.5㎝から3.5㎝程度と比較的大型のプラナリアの仲間」とあります。「耳葉が反り返り、角状に見えることが“ツノ”ウズムシの由来となっている」ともあります。 近縁種には、同じく北米原産のアメリカナミウズムシや、在来種であるナミウズムシがいますが、「耳葉」という頭の左右に突き出た角が尖っていることや、両目の間隔が広いことから、今回はアメリカツノウズムシと判別してみました。 ミミズは環形動物門に属する生きものですが、アメリカツノウズムシは扁形動物門に属しており、サナダムシやコウガイビルなどと同じグループです。 コウガイビルは「ヒル」と名前が付いていますが、いわゆるヤマビルやセスジビルなどのヒルとは、また別のグループというわけですね。 これはまた別のところで観察したもの。 左右の耳葉があまり尖っていないようにも見えますので、もしかしたら、アメリカナミウズムシか在来のナミウズムシかもしれません。 これはどうでしょう。耳葉は尖っているようにも見えますが・・。 目の感覚が狭いから、これはアメリカナミウズムシかも・・。難しいですね。
アメリカツノウズムシは、このように死んだエビや魚、ムカデなどにセスジビルやミズムシなどとともに集まっている姿を主に夜間に観察することができます。日中よりも、夜の方が圧倒的に姿を現しますので、夜行性なのだと思います。 死んだミミズにもこのように集団で集まります。 このようにアメリカツノウズムシは、生きものの死骸ばかりを食べるのだと思っていました。 日中、石の裏にいたもの。これも確かではありませんが、アメリカナミウズムシなのではなかろうかと・・。
ところが先日、驚くべき観察をしたのです。 朝方、たまたま近所の川で川ミミズの這い出しを観察することができました。ミミズも夜行性ですから、夜の方が這い出している数は多いのですが、朝でもポツポツと観察することができます。この川ミミズは長さ5㎝ほど。環帯は見られなかったので幼体だったかと思います。少し肌ツヤが悪く、体の一部に擦り傷のようなものはありましたが、比較的元気に動き回り、石についたコケなどを食む姿を10分ほど観察したでしょうか。 その時、驚くべきことが起きたのです。 ミミズの頭付近で接触したアメリカツノウズムシが、突如ミミズの体にへばりつき、一方で地面にも張り付いた状態でミミズの自由を奪ったのです。ミミズはものすごい勢いで暴れまくり、この時は程なくアメリカツノウズムシを引き剥がすことができました。 ところがその後すぐに・・ 別のアメリカツノウズムシが、ミミズに襲いかかっていったのです。 実はその直前に、ミミズの尻尾の方も襲われていて、動きを止められていました。暴れるミミズに悠々と近づいてくるアメリカツノウズムシ。 左側の方、尻尾が完全に留められているのがわかりますでしょうか。見づらいのですが、頭の方もしっかりと留められてしまいました。そしてさらに大型のアメリカツノウズムシがやってきます。 そして身動きの取れないミミズにぐるぐるとイッタンモメンのように巻きついていったのです。この動きは、またいずれご紹介しますが、同じ扁形動物門であるコウガイビル(ミスジコウガイビル)の狩りのしかたにそっくりでした。 アメリカツノウズムシの脅威的なところは、弱った獲物を仲間が押さえつけると、その何かを嗅ぎつけるのか、仲間が次から次へと集まってくることです。水中で、結構遠くの方からも一目散に近づいてくる様子は、伝達信号物質を出しているのか、はたまたピラニアやサメのように傷ついた箇所から流れる血の匂いを嗅ぎつけてくるのか・・。恐ろしやです。 その後、30分ほどで、ミミズはほとんどボロボロにされてしまいました。さっきまで動き回っていたミミズが、一瞬でアメリカツノウズムシたちの食べものと化してしまうことに、とても驚きました。 かつて別の場所でこのようなシーンを観察したこともあります。ウグイかカワムツか、小さな幼魚がウズムシたちに襲われている姿です(その時のブログでは分からずにヒルと表現)。死んだ小魚に集まっているだけかと、その時は思いましたが、今思えば、弱った小魚に襲いかかって「捕食」していたのかもしれません。 川ミミズを襲ったアメリカツノウズムシのなかで、特に大型(2㎝ちょっと?)の個体の口元を観察することができました。ミミズの頭に巻きつき、漏斗状の真っ赤な口で吸い付く場所を探しているところです。ミミズの血を吸ったためか、ウズムシの体内は赤く染まっていました。 アメリカツノウズムシは、川ミミズの暮らす川の浅瀬にたくさんいます。川ミミズが川底に這い出せば、接触の機会はとても多いことでしょう。朝方の川ミミズの這い出しを観察していて気になっているのは、頃合の良い石の下に潜って行くときに、とても用心深いことと、急にビクッと頭を引っ込めて、潜り込むのをやめてしまう姿をしばしば観察できることです。もしかして、石の裏にたくさんいるアメリカツノウズムシと接触して、慌てて首を引っ込めたのかもしれません。 一方、健康的な川ミミズはアメリカツノウズムシに張り付かれても、振りほどくことができるのかもしれません。一度、頭についたアメリカツノウズムシを、石に擦り付けて剥がすシーンも観察したことがあります。 チーターやライオンが弱ったガゼルに襲いかかるように、ツノの生えた小さな狩人は、弱ったミミズに集団で襲いかかって、捕らえているのかもしれませんね。〈若林〉□
関連過去ブログ【命がけのモグモグタイム】 【お知らせ】川辺の自然観察をまとめた一冊、『武蔵野発 川っぷち生きもの観察記』発売中です!(アマゾンの販売ページはこちら) |