話題の新刊『自宅で湿地帯ビオトープ!』(中島 淳・著/大童澄瞳・画)を読みました。 自分の庭やベランダに池を持つーー。 多くの釣り好きや水辺好きの人が、一度は願う淡い夢ではないでしょうか。 本書はその夢を叶えるための方法を、わかりやすい実例を示しながら楽しく紹介しています。 実は私は、子どもの頃にすでにその夢を叶えてきました。 自宅の庭に池があったのです。 父や兄と池を掘ってから、すでに40年ほどの月日が流れました。こちら、つい先週の写真です。土を掘ってコンクリートで固めたもので、経年劣化からか最近はどこかから水が漏れて、水位が上がりません。そこで金魚を一匹飼っています。 この池については過去のブログにいろいろと書きましたので、ここで詳しくは触れませんが、とにかくたくさんの魚を釣ったり捕ったり買ったりしては、この池に入れてきました。 ただ、あらためて考えると、そこまで外からやってきた生き物を意識してきたことってなかったなーと、この本を読んで思い至りました。過去には春になるとヒキガエルが毎年のように卵を産みに来ましたし、今でも冬場に池の底をさらうと、小さなヤゴがごっそり捕れます。つい先週はヒヨドリが水浴びに来てました。夏になるとトンボが数種類、やってきます。でも、それぐらいのもので、都内の住宅地の中にある貴重な水場であるこの池に、どんな動植物がやってきて、この池に依存して暮らしているのかなんて、あまり気にしたことがありませんでした。 本書『自宅で湿地帯ビオトープ!』は、エコトーンを大切にした水場(湿地帯)を作ったら、いろいろな生き物がやってくるぞ!と、その作り方と楽しみを教えてくれます。エコトーンとは、水かと陸地の間にある移行帯のことですね。 作ったビオトープに生き物を放つことを否定する内容ではありませんが、基本的には、作ったら外から動植物がやってくるのを待つことを第一義にしているように読めました。 「ビオトープ」という言葉には「箱庭」的なイメージが私にはあり、それはまさしく私が子どもの頃から楽しんできた池遊びにも近いものなのですが、本書で勧められている「湿地帯ビオトープ」は、もう少し外に開かれたものであると知りました。 副題には「生物多様性を守る水辺づくり」とあります。自宅の庭やベランダという個人的スペースでありながら、外とのつながりを意識した湿地帯を作ることで、生物多様性保全にも寄与することができるはず・・とも書かれています(そのための方法が書かれています)。 水田の放棄や開発等により、二次的自然である湿地帯が急速に失われている今の時代、わずかながらにも(?)湿地帯ビオトープがその代わりとなれば・・という意識が込められてもいるのです。 また、外に開かれているからこそ、湿地帯ビオトープづくりの前説には、生物多様性や外来種問題についての知識が、誰にでもわかるように解説されています。 私は正直なところ「ビオトープで環境保全」みたいな取り組みに対して、その必要性を感じながらも、やや独善的な匂いが苦手だったりもしなくはありません。 ただ本書は「自宅で湿地帯ビオトープを作って楽しもう」という楽しさにこそ力点が置かれているためもあり、最初から最後まで楽しく読みながら「楽しむために必要な約束事とその理由」というお勉強が、すっと抵抗なく頭に入ってくる作りになっています。 このあたりの表現・伝え方は、とてもていねいに練り込まれていると感じました。 この本を読んだ人が湿地帯ビオトープを作った時、まず最初に感じる面白さは、自分の創造した「箱庭」的な水場が外からやってきた生き物に認められる喜びなのかもしれません。 そして年を経るごとに自然度が増してゆく湿地帯ビオトープを愛でながら、こんな小さな水場も、これほどたくさんの生き物たちが利用するんだ・・という、気づきを得るのではないでしょうか。 そんな目を持った人が近所にあるちっぽけな川っぷちや田んぼ、用水、湿った斜面地を見れば、こうも思うことでしょう。 小さいといっても自宅のビオトープよりは数倍も大きなこの湿地帯には、いったいどれほどの生き物が暮らしているのだろう・・と。 今朝見た、近所の小さな川っぷちのエコトーン。 小さなイタチの足跡がありました。 モクズガニの脚も。 この本を読み、小さな湿地帯ビオトープを作って愛でて楽しむことで、多くの人が(これまであまり関心のなかった)なにげない身近な水場の貴重さを、強く実感することができるのではないでしょうか。 そんなことも感じる一冊でありました。〈若林〉□
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