先日、列島に大雨を降らせた前線の通過後に、近所の川で驚くべき観察をしました。 それはこちらです。 なんと木登りミミズです! おそらくこれはクスノキだと思うのですが、刻み込まれた樹皮の溝に沿って、1m80㎝は上っていたかと思います。雨はまだポツポツ降っており、樹皮は濡れていました。
現場はこのような感じ。大水により一部冠水した状態でした。これでもだいぶ水が引いた後なので、数時間前はもっと水びたしだったはずです。 これは…ヘンイセイミミズでしょうか。 私自身、これまで垂直護岸をのぼるミミズはたくさん見てきましたが、木登りするミミズを見るのは初めてのことでした。 「木登りミミズ」については、南谷幸雄さんと辻井隆昭さんによる「木登りをするミミズについて」(埼玉県立自然の博物館研究報告)というレポートがあります。そこでは木登りをするキクチミミズの観察がまとめられています。 この報告の考察には、ミミズの木登り行動、特に熱帯産ミミズの木登り行動の生態学的意義として提唱されている5つが紹介されています。それによりますと・・ ①洪水に対する一時的な逃避 ②きわめて湿潤な森林土壌の酸や水没、酸素欠乏からの恒常的な逃避 ③乾燥に対する恒常的な逃避 ④泥流などによる偶然的な乗り上げ ⑤グンタイアリなどの外敵からの逃避行動 今回、私が観察したものは①もしくは②の状態かと思われます。 いずれにしても一時的に水没もしくはそれに近い状態になったエコトーンの樹木に、何らかの理由で這い上った行動かと思われます。 木にはミミズの他にも、さまざまな土壌動物たちが這い上っていました。 ダンゴムシやワラジムシ、ヤスデ、ムカデ、ハサミムシ、ハネカクシ、ヨコエビ、ゴミムシ、テントウムシ、ゴキブリ、カタツムリ、アオオサムシ、オオヒラタシデムシなどなど・・。 そしてミミズも1匹ではありませんでした。 「クリームオヨギデカミミズ」!? キクチミミズらしきやつも! 今まさに上らんとしているやつらも! クスノキらしき木のほか、クヌギもありました。 時間にして1時間ほどは観察していたかと思います。 その間に雨は上がり、雲の間から太陽も時折顔を覗かせるように。 するとミミズたちは、明かりをきらったのでしょうか。樹皮の上から姿を消しました。おそらくポトリと落ちて、地中に潜っていったのかと思います。 気になって、夜もまた見にいってきましたが、すでに樹皮は乾き、木登りミミズの姿を見ることができませんでした。 南・東南アジアや、南米の熱帯では、樹上で生活をするミミズが複数報告されています。今回、私が観察したのは、おそらく大水の水位上昇にともなう行動かと思われます。普段から樹上生活を送っているわけはないと思います。 ただ、現生する樹上性ミミズが木の上で暮らすに至った「過去の進化の一場面」を目撃したとは言えるのかもしれません。 地面が水浸しになるたびに木に登っているうちに、木の上の暮らしのほうがいいや・・となったミミズがいたのではないでしょうか・・。 今気になっているのは、地面が水でヒタヒタにならなくても、樹皮が濡れば上ってくるのだろうか? といったことです。地面が水浸しにならず、樹皮が濡れるぐらいの雨でも上ってくるとしたら、それは「水浸しの地中からの逃避」とは、また少し違った意味があるのかもしれません。 夜、もしくは日中でもローライトの雨天なら、もしかしたら可能性はあるかも・・なんてことを思いつつ、来たる梅雨を楽しみにしております。〈若林〉□
【お知らせ】川辺の自然観察をまとめた一冊、『武蔵野発 川っぷち生きもの観察記』発売中です!(アマゾンの販売ページはこちら) ★RIVER-WALK Vol.1~Vol.3発売中です!★
|