昨年の3月にこの世を去られたイラストレーター・作家である本山賢司さんの回顧展『Bonefire Dog』を観に、高円寺の「Uptown Koenji Gallery」に行ってきました。

 

「BoneFire Dog」とは、直訳すれば「焚き火の犬」。

意訳すれば、それは「焚き火を囲むものたち」。焚き火をとても好んだ本山さん。私は本山さんの書く短編小説が大好きで、そこにはたびたび焚き火の話が出てきます。焚き火に炙られた鱒や鶏肉、そこで傾けるウイスキーの盃、火明かりと対照的な周囲の森の闇。自分が経験したシーンでもないのに、とても懐かしい気持ちになるのです。

短編小説のファンだった私は、2016年から3年間、発行した渓流釣りの本『RIVER -WALK』で、ぜひとも本山さんにイラストと文章を書いてもらいたいと思い、緊張しながら最寄駅のジョナサンで落ち合い、気持ちを伝えると、その場ですぐに湧いたイメージを楽しげに伝えてくれました。本山さんが考えたコンセプトは「主人公が人と動物を行き来しながら次々と移り変わっていく物語」。

そして生まれたのがVol.3まで3合連続で連載していただいたイラストレーションストーリー『川と森の掟』です。

第一回の扉絵は、焚き火にあたる男でした(その男は自分で言うのもなんですが、私にとてもよく似ていました)。

そして『RIVER -WALK』First Issueが発売となってすぐに、高円寺で「焚火」をお題とした本山さんを囲む読書会があり、参加させていただきました。

その時のパンフレットも今回、展示されていました。焚き火にあたる男の絵こそが、『川と森の掟』の扉絵だったのです。美味しいダッチオーブン料理と焚き火の本の話(私は志賀直哉の『焚火』を語りました)。とても素敵なひとときでした。

今回の展示は、本山さんの絵の魅力を、あらゆる形で楽しむことができる仕組みになっています。会場の中央には、本山さんのアトリエを再現した机まで置かれていました。愛用の作業用エプロンも。

スケッチブックやファイルも、アトリエの様子さながら展示されていました。入稿用の絵を受け取りに行った際、「少し時間ある?」と言いながら淹れていただいたコーヒーと聴かせていただいたレコード、その時間のことを思い出しました。

ヒグマの油絵作品。本山さんは実にたくさんの熊を描かれています。

本山さんはキツネもよく描かれていました。キツネが表紙絵となっている2冊の短編集『星の降る森で』。ともに同タイトルの短編作品が収められています。私が特に好きで何度も繰り返し読んでいる短編です。子どもたちの初めてのキャンプ。とても印象的な焚き火のシーンが出てきます。

左側の青い表紙は後年に自薦集として出版されたもの。この本の後書きには、私のことも書いていただいてます(この本については過去ブログ【ブルーフォックス】をご参照ください)。

素晴らしいナマズのペン画。

イワナの絵もたくさんありました。これはアメマスでしょう。

ドキドキするラフスケッチ画も。

今回の展示では、これまで目にしたことのなかったラフスケッチを多数見ることができます。完成された絵とはまた違う息遣いが感じられ、思わず我を忘れて夢中になって次々とファイルを掘り進めてしまいました。

そして生前、ずっとつけられていたというダイアリーも。そこにも絵が生まれる伊吹が詰まっていました。個人的なものでもあるため、写真で公開することはできませんが、1ページだけ・・。

『川と森の掟』の草案です。

後で思い起こせば、私と話し合いながら描かれていたものだったかもしれません。

最後に。今回、最も今の私の心を捉えた絵がこちらです。

婚姻色である「ブナ毛」に染まったサケです。メスとオスでしょうか。

これはどのような絵だったのでしょうか。ノドの部分で切れてしまっているので、出版物のためのものでもなさそうです。試し書きにしては、サケの色彩と表情はあまりにも見事です。開いた瞬間、ドキッとして、しばらく目を離すことができませんでした。

展示は明日、12月3日まで。

『BonFire Dog − 本山賢司 回願展 −』

期間:2023年11月25日(土)〜12月3日(日)

時間:14:00〜20:00

場所:Uptown Koenji Gallery

住所:東京都杉並区高円寺南3-23-16 2F

ぜひ、この機会に本山賢司さんの作品の魅力に触れてみてください。

 

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