本日はとても暖かな一日。うららかな一日でした。

最近、あまり外に出られないじゃないですか。

ですが狭い事務所にこもりっきりというのも精神衛生上よくないので、朝とお昼は川を見に行っているんです(朝が増えました‥)。

最近の朝のおともはこちら。

ふっくらとかわいいイワツバメ。まだ営巣は始めていないようですが、これからの観察がとても楽しみです。

今日も見ることができたしよかったよかった‥と事務所に向かおうとしたところ、ふと目に着いたのがこちら。

「スマートさん」ことニゴイです。ちょうど産卵行動の真っ最中でした。

サケやマスの産卵行動観察には並々ならぬ時間を注いできたワタクシですが、ニゴイの産卵行動はじっくり見たことなかったなー。どれどれ‥と、土手にどかっと腰を据えて、観察をはじめたわけです。

なんとなくイメージでは、「ログ・サーモン」ことマルタウグイやアユのように群れで浅瀬でわちゃわちゃと産卵をするのかと思いきや‥ここで観たのはオスとメスと、その後ろにぴたりとついた小型のオス。これって‥まさにサケマスの産卵で見られるペアとスニーカー(小型オス)との関係では‥。

こちらはサクラマス。身体を横に倒して白っぽくなっているのは産卵床(巣)を掘っているメス。その後ろに頭だけ見えているのがペアのオス。そして周囲にいる小魚はスニーカー的存在のヤマメです。

ニゴイのメスは産卵床は掘りませんでしたが、砂礫底の場所にゆるく定位しながら上流に上ったり下流に下ったりしています。そしてその後ろをペアのオスがぴたりと寄り添うように泳ぎ、さらに1mほど後方にスニーカーである小型オス。

ちなみに「スニーカー」の説明をするだけで、とても長くなってしまいますので割愛しますが、要するに小型でペアになれず、ペアの後ろに定位して、いざ産卵・放精の瞬間にペアの間に割り込んで自分も放精してしまう‥という戦略を取るオスのことです。

いやすごい‥。面白い‥。ペアのオスは、近づいてきたスニーカーオスに猛然と突っ込み追い払っている。これもまたサケマスと同じ。そして基本的にメスよりも前(上流側)にはあまり出て行かない。これも同じ。

サケマスの場合、オスはブルブルと震わせた身体をメスにこすりつけるような「求愛行動」をして産卵行動を促すのですが、ニゴイの場合、ブルブルはなさそう。でもそれ以外はほとんど同じです。

本当は写真でお見せできればよかったのですが、なんと大事なところでバッテリー切れ‥。

そこでちょっと頑張って、イラストを描いてみました。

【基本フォーメーションからのスニーカーオス追い払い】

左が上流側。水は左から右に流れています。①基本体勢。メスが前、メスよりも少し大きなペアオスが少し後ろ。そこから1mほど離れてメスよりも小型のスニーカーオスがさらに後方。②スニーカーオスが近づきすぎたことに気づくと③猛然とダッシュしてスニーカーオスに攻撃を仕掛けます。サケマスのように咬みつくまではしていないみたい。尻ビレのあたりに突進します。延々と10mほど下流まで追いかけていくこともしばしば。④ある程度、追い払いに成功したペアオスは、スーッとメスの後方のポジションに戻っていきます。これがスニーカーオスのいる時の基本フォーマット。観察の途中、下流からオスがさらに2匹上流へと上がってきてペアに近づいていきました。一匹は小型でしたが、一匹はペアオスと同じぐらい。同じぐらいの遡上オスに対してペアオスはかなりしつこく上流にまで追い払いに行きました。この感覚もサケマスに近いのですが、サケマスほど遡上オスはここのメスに執着していないみたい。

【サケマスにはあまり見られないひそひそパラレルドリフト】

基本的にとてもサケマスの産卵行動に似ていましたが、大きく違ったのがこちら。①②ペアオスは時折、メスに並びかけたり、上流側に出ようとするんですね。③その時、メスがオスのその行動に気づくと「いや、まだよ」と④少し上流側に出てから身体を傾けて、⑤そのまま流れに対して真横を向く形でオスを押すように下流へと並んだまま流されていく行動です。これを「ひそひそパラレルドリフト」と名付けてみました。パラレル(並行)にドリフトしながら(流れながら)、時折口を寄せて、なにやらひそひそと会話を交わしているようなのです。結構頻繁に見られましたが、とても美しい行動でした。時には10mほど、そのままひそひそと流れて行ってしまうことも。そしてこれが終わると決まってメスが先頭にたって、また定位置に戻ってくるのでした。

こんな感じ。オスの口のぶつぶつは髭ではなく(髭はオスメスともにあります)産卵期に現れる二次性徴の追星(おいぼし)です。あとイラストではわかりませんが、メスは茶色味がかったオリーブ色。オスは黒手前の暗色です。スニーカーは時に色を変えましたが(これもサケマスと同じ)、基本的に黄土色。メスよりも明るめの色でした。

【産卵が近づいた段階で見ることのできたオスの追い越し】

それまでメスの前(上流側)にはなかなか出してもらえなかったペアオスですが、スニーカーのオスを途中で完全に追い払ってからフェーズが変わったような気がしました(たまたまそのタイミングだったような気もします)。ペアオスが頻繁にメスの前に出ようとして、そのたびにメスがさらに前方に進んだり「ひそひそパラレルドリフト」に持ち込まれたりしましたが、少しずつペアオスが前に出られる場面も多くなってきました。そんな時に見られたのが上の行動。①前方に出たペアオスがメスを押さえ込むように「ひそひそパラレルドリフト」に持ち込むのか?と思いきや、②③メスの身体の上をすり抜けて反対側へ。④メスの後方に位置取りますが、⑤また前方に出て行き、⑥押さえ込むようにして⑦メスの身体の上をすり抜ける。こんな行動です。なんでしょう。これがいわゆるニゴイのペアオスの求愛行動のようなものなのか?なんてことを思ってみたり。

【産卵直前そして産卵・放精へ】

結局、朝っぱらから2時間半ほど観察に費やしてしまったのですが、その間に幸運にも産卵の瞬間を2回観察することができました。その2回ともに見られたのが上の行動です。まず①メスが底の砂利を口でスパスパやります。オスは異変を察知。②そして勢いペアオスがメスに並びかけると、それに気づいたメスは反応するようにペアオスよりも少し前方へシフト。そしてメスは身体をのけぞらすようにして口を斜め上にあげ、まさにサケマスのそれのように身体を震わせたではありませんか! 時間は1.8秒‥ぐらい(ペアオスが口を開けていたかどうかは定かではありません。イラストはイメージです。なんとなくですが、口は開けていないような気もします)。産卵直前にペアオスは盛んにメスの前方に出たがっていましたから、もしかしたらメスよりもオスのほうが前方で放精するのか?なんて思っていました。サケマスのようにすり鉢型の産卵床も作らないから、放精した精子が滞留せず流れ下ってしまうだろうから、卵よりも前で放精するのかも‥なんて。でも2回ともメスが前方でした。そして2回のうち1回はスニーカーオスがどこからか突っ込んできました(きっとまぎれこんで放精したのだと思います)。

ちなみに1回目の産卵と2回目の産卵の感覚はちょうど10分。1回目の産卵・放精の後、ペアオスは上流のどこかに行ってしまい、その後しばらくメスはスニーカーオスとペアを組んでいました。5分ぐらいしてペアオスが戻ってきて、スニーカーオスはどこかに行ってしまいました。メスは卵を産んだあと、またすぐに次の産卵行動に入っていたようです。イワナのふりふりダンスのような産卵後の行動にも期待したのですが、あまり目立ったものは見られませんでした。

2回目の産卵・放精を見て、その後も15分ぐらい観察したところで「そろそろ‥仕事、じゃない?」と自問して後ろ髪ひかれつつ、その場を離れたのでありました。。

水深は15㎝ほどでしょうか。瀬のど真ん中。1~2㎝ほどの砂礫底。周囲にカバーはほとんどなし。サイズは目測(かなりいいかげん)メス30㎝、ペアオス35㎝、スニーカーオス25㎝。産卵時刻は11:54と12:04でした。快晴。微風。太陽を背に観察。途中、15㎝ほどのイナッコの群れが3回ほど通過。婚姻色の出ていない30㎝ほどのマルタウグイ(もしくはウグイ)の4~5匹の群れが2回上流側へ通過。イワツバメが水面で虫を捕食(もしくは水飲み?)。カラスの影にニゴイペアはめちゃくちゃビビッてました。

ちなみに今回、あえてこのブログを書く前にもニゴイの産卵行動などのユーチューブ動画などは見ずにおきました(あるのかどうかもわかりません)。ただ、群れで産卵する‥というイメージもあったような気がするんですよね。マルタウグイみたいに。卵がどんな感じなのかとか、一般的な産卵行動とか、生活史について、ほとんど知りません。これを機に、少しずつ勉強してみようかな‥なんてことも思っています。

以上です。

いやー、産卵行動ってほんとにいいもんですね‥。

 

そうそう、ニゴイと言えば、先日もブログに書きましたが、このところちょっと気になっていたんです。

こんなお姿だったり…

こんなシーンが目立っていましたので‥。

これを「ニゴイマスター」と陰で呼ばせてもらっている釣友に話すと「うーん‥あまり考えたくないことだけど、あれじゃない。この時期、ニゴイは良く釣れるから‥釣り人の扱いだったり釣られたダメージで弱ってしまったものが鳥にやられているんじゃない?」と。なるほど。それもあるような気がします。あとは産卵後のダメージで弱っているということもあるのかもしれません。もしくは産卵行動に夢中になることで、鳥に襲われやすいのかもしれませんね。

大型になるとメドウマウスにだって食いついてくれる親しみやすく目は怖いニゴイ。

小型のものにはパーマークのような模様もあって、こんなところもサケマスっぽいなと思ってました。

個人的にはログ・サーモンよりもサーモン寄りなんじゃないかと思っています。

もともと好きな魚ではありましたが、今回の産卵行動観察で、グッと親しみが湧いてしまいました。〈若林〉□

 

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